1979年の監督デビュー以来、『KAMIKAZE TAXI』('95)『金融腐敗列島[呪縛]』('99)『関ヶ原』('17)など、社会派エンターテインメントから歴史物、時代劇まで幅広いジャンルを手がけてきたベテラン監督、原田眞人。その最新作が、『検察側の罪人』である。長いキャリアを通じて高いポテンシャルを保ち続ける原田監督は、『駆込み女と駆出し男』('15)『日本のいちばん長い日』('15)と、近年の作品においても高い評価を得ている。
今作は、木村拓哉と二宮和也という、ふたりの人気スターを中心に、吉高由里子、松重豊、大倉孝二、八嶋智人などの役者陣を配した話題作だが、テーマはあくまで重厚だ。エリート検事の暴走を通じて現代社会の歪みがあぶり出される本作は、「いまの日本の切実さを感じてもらえたら」*1という監督の言葉にあるように、われわれ日本人が直面する問題を扱ったフィルムである。
蒲田で起きた老夫婦の殺人事件を調査する最上(木村)は、参考人として捜査線上にあがった5人のリストのなかに、松倉(酒向芳)の名前を見つけ戦慄する。松倉は、23年前に起きた荒川女子高校生殺害事件の容疑者として拘留された過去を持つ男であった。
物語は、エリート検事として活躍する最上と、彼に憧れる新任検事、沖野(二宮)の関係性を軸に進んでいく。当初、沖野は最上に尊敬の念を抱いていたが、やがてその手法に疑問を抱き、批判的な立場へ変化していく。なぜ沖野は最上に失望したのか、そこに本作のテーマがあると思われる。蒲田老夫婦の殺人には複数の容疑者が浮かんでいたが、決定的な証拠がなく絞り切れていない。しかし、残忍な殺人事件の〈限りなくクロに近い容疑者〉として拘留された過去を持つ松倉こそが犯人ではないか、という検察側のストーリーに沿って捜査は進んでいく。すでに時効を迎えている荒川女子高校生殺人事件。その犯人であることがほぼ確実な松倉に、どうにかして社会的制裁を与えたい最上。容疑者の絞り込みが進まない中、松倉の逮捕に固執する最上は、やがて事実を歪めてでも彼を犯人に仕立て上げたいと願うようになる。
本作で原田監督が、原作小説にはない要素として取り入れたのがインパール作戦のモチーフである。最上の祖父は、大東亜戦争でインパール作戦に参加した過去があると、映画版では設定されている。昭和19年に開始されたこの作戦は計画の杜撰さで悪名高く、大量の死者を出すなど支払った犠牲も大きかった。また作戦の失敗が明白になった後にも、指導者たちは体面を気にするあまり撤退の決断に踏み切れず、犠牲者は増加した*2。