お父さんの働き方だけ、昭和の時代から変わっていない
田中俊之(以下、田中) はじめまして。書いているテーマが近いので、いつかお会いできるんじゃないかと思っていました。
山内マリコ(以下、山内) 私もです! 男性学の田中先生にぜひこの本を読んでいただきたくて。
田中 それは嬉しいです。
山内 自分がなぜ男性学に興味をもったかというと……私は20代中盤くらいまでは、「女子って無敵~」くらいの感じで生きてたんです(笑)。けど10年ほど前に突如フェミニズム的なものに目覚めてからは、ずーっと世の中に怒りまくってて。
田中 なるほど(笑)。
山内 私だけじゃなく、この10年でSNSの発達もあって、女性は変化を求めて声を上げてますよね。世界的にもネオ・フェミニズムの流れが来て、#MeTooも起こって、70年代のウーマンリブに匹敵する動きになっている。
そういった流れの中で気になったのが、女性だけがこの問題に向き合うのは、壮大な片手落ちなんじゃないかということです。じゃあ男性はどうなんだろう? と。日本の男女不平等な状況を変えるためには、女性学と同じように、男性にも男性のことを考える学問や、男性自身の目覚めがないといけないじゃないかなって。
田中 まったくその通りです。男性が生き方を変えないと、社会全体が変わるはずがありません。
山内 女性は学校を出たら外で働くのがデフォルトになっているけど、男性は自分が無償で家事労働する側に立つなんて考えてもいないですよね。女性の社会進出は常識になったけど、男性の“家庭”進出は議論にもならずに、ダブルスタンダードのまま何十年も、女性だけが悶々としてきた。
女性って、ある年齢までは自由を謳歌できるんですけど、いざ結婚がリアリティを持つ年齢に達した途端、必ずこの壁にぶち当たってしまうんです。私も結婚してはじめてそれを痛感して、実体験をもとに『皿洗いするの、どっち? 目指せ! 家庭内男女平等』というエッセイを書いたんですが、一体なぜ男性だけが、変わってないんですか?
田中 とてもいい質問です。数字を紹介しますが、80年代後半、つまり昭和の終わりには4人に3人が結婚・妊娠・出産で仕事を辞めていたんですね。そう聞くと皆さん「さすが昭和だなあ」って言うんですけど、実は90年代も割合はあんまり変わらず、70%の女性が結婚・妊娠・出産で仕事を辞めている。2000年代でも60%後半なんです。
山内 へえー。
田中 2010年代に入ってから育休をとって職場復帰する人が10%増え、その分、辞める人の割合がようやく50%台にまでなりました。……というように山内さんのおっしゃる通り、少しずつでも女性の働き方は変わってるんですね。
一方、変わらないのが男性の働き方です。90年代後半に、共働き世帯が専業主婦世帯を上回りましたけど、これは景気が悪くなってお父さんの給料も下がったから、お母さんがパートに出はじめた結果なんですね。そういう成り立ちの共働きだから、お父さんの働き方は変わりません。
今はさらに男の給料が下がって、パートじゃ立ち行かず、夫婦ともにフルタイムで働くようになった。男性の不足分を女性が補っているという構図は変わっていないんですね。企業側も景気がいいときは人手が欲しいから女性を雇用するけど、不景気になって切られるのは女性です。だから女性は派遣などに置き換えられてきましたよね。
山内 なるほど。男性が社会で思うように稼げなくなった補填を、女性が家事育児をしながらかぶっている。不満がたまるはずですよ(笑)。
田中 高度成長期以降、男性がフルタイムで、新卒から定年まで40年会社に勤めるという働き方は固定されている。そこを固定したうえで、女性を調整弁にするって方法を日本はとってきたんです。この状況は女性にとって悲劇です。
山内 調整弁……。でも、実際そういう扱いですね。
脱サラして蕎麦を打ちたい男の夢は、今の日本では叶えられない
田中 ただ、男性たちは「なんで変わらないの?」って責められますが、そもそも変わることを期待されていないですよね。お父さんは退職まで収入は尽きない前提にされちゃってるから、40歳過ぎて「俺、蕎麦うつわー」とか言おうものなら、家族に拒否されまくりますよね。「お父さん、せっかくここまで働いたんだから、蕎麦なんて打たないでー」ってことになっちゃう。
山内 止める止める(笑)。
田中 だから、世の中がお父さんたちに「変われ」って求めているのは、せいぜい残業を減らすとか有給をもっと取れとかその程度だし、社会のシステムが「男は生き方を変えない」という前提で回っちゃってる。