1月19日
家族で上京。
かずふみ、夜いきなり高熱。頬っぺたが真っ赤。後頭部から首、腕など全身が熱い。座薬を持ってこなかったことを悔やむ。
真夜中、遂に40℃超え。あたふたおろおろ、旅先だから焦りに拍車をかける。
救急車を呼ぶべきか。こんな時間にちゃんと診てもらえるのか。東京だとどこの病院に連れて行ったらいいのか。まったくわからない。
嘔吐なし、下痢あり。何度か痙攣の光景に胸が押し潰されそうになる。
すべての親がそうであるように、子供に何かがあると、自分の行いが報いているのではないかと妄執に苦しめられる。
この子に災いを与えないでくれ。自分はどうなってもいいからと、何者かに祈る。
この程度の才能でよくぞ作家になれたものだと思う。承認欲求は満たされた。会いたい人にはだいたい会えた。野心はもともとそんなにない。夢もほとんど叶った。だからいま死んでも悔いはない。
いや、ひとつだけある。いま死んだら、かずふみに自分のことを覚えてもらえないことだ。
それは自分の作品に任せればいいのか。
いやだけど、かずふみよ、きみこそパパの最高傑作です。
心配のしすぎで結局朝まで眠れず。
朝8時、ダウンする間際に、横で爆睡しているふさにメールを送っておく。
〝申し訳ないけどかずとふたりで病院に行ってもらえますか。俺が一緒に行っても足手まといになるだけなので。すいません〟
昼過ぎのベッドでひとり目を覚ます。ふさこからまめにメールが届いていた。
〝インフル
アデノ
溶連菌検査中〟
〝熱は39.1℃。愛育クリニックの体温計〟〝ここに来て正解だった。友達が産んだクリニックだから記憶にあった〟
〝ファロム、ラックビーをひとまず中止〟〝溶連菌のみ陽性〟
〝2週間後にオシッコ検査必要。快復後にも腎炎のおそれがあるため〟
〝帰るね〟
読み終えた直後、部屋のドアが開く。胸に抱かれたかずふみごと、ふさこを抱きしめる。
その行動力と決断力に感謝。
かずふみよ、ふさこがおまえのママで良かったと、パパは初めて思ったよ。
夜、ふさこは高熱のかずふみを僕に預けてビビットの新年会に出かけていった。
僕はぐったりしたままのかずふみを抱えて、小学館のイケメン編集者酒井と、猪木や長州が訪れるという六本木の大衆居酒屋で飲む。せっかく東京に来たのにキャンセルはできないし。
酒井はこの世でただひとり、小林よしのり、吉田豪、呉智英、落合信彦、樋口毅宏の担当。一橋大学プロレス世界プロレス同盟首席卒業のサブカル変人。くだらないロックや映画やプロレスの話をする。
ホテルに戻る。かずふみはよれよれのまま。熱を測ったら40.7℃!
ふさこはなかなか帰ってこなくてやきもき。
朦朧としたかずふみの顔を覗き込むと、顔面を叩かれた。ケラケラ笑ってる。
暴力で愛情表現。将来は立派なDV男か。
1月21日
平熱へ。ホッ。京都に戻る。
1月22日
体中に発疹が出る。突発性発疹だったとわかる。
「あした明後日は保育園休みだな。俺が家で面倒見るよ。良かったな、夫が暇人で」
妻よ、その微苦笑は何だ。
1月23日
かずふみの首の生え際にしこり。またしても気を揉む。
こんなときは、ふさことの何気ない会話に癒される。
「おならだと思ったらうんこ出ちゃった。絶対内緒にしてね。前みたいに週刊新潮に書かないでね」
「わかってるって」
おまえまだ知らないのか、作家って基本ウソつきなんだぞ。
1月24日
ふさこが帰宅するなり、「うんこの臭いしない?」
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