ときは19世紀後半。場所はフランス・パリとその周辺。それが印象派の生まれた舞台です。中心人物を挙げるとすればモネ、そしてルノワールとなりましょうか。どちらも聞き及びはあるでしょうし、作品も思い浮かびますよね?
モネは陽射しと緑がたっぷりの温かな雰囲気の絵で、きらめく水辺を描いた《睡蓮》でもおなじみかと。ルノワールにも同じような風景画はありますけれど、彼の場合はふくよかでかわいらしい女性を描いた作品のほうが、真っ先に頭に浮かぶかもしれませんね。
認知度と人気の高さ、親しみやすさにおいて、両者は群を抜きます。理屈や薀蓄より先に、絵とはやはり作品の前に立って、ただうっとりできることが何より。印象派の代表格たるモネやルノワールは、アートに触れる楽しさを改めて教えてくれます。
穏やかで優しい画風の人気者。モネ、ルノワールをはじめピサロ、シスレー、カサットら印象派の面々は、みなそういう雰囲気を湛えています。人柄としても、穏健で善良なタイプが多かったようですよ。ただし彼らが為した画業は、それほど甘いものとはいえません。何しろ旧世代の絵画を丸ごと否定して、美術史の流れを大きく曲げてしまったのですから。
印象派がおこなった大革命とは
印象派はいったい何をしたというのでしょうか。 同じモチーフをたくさん描いたことでも有名なモネの《睡蓮》に則して見てみましょう。
この絵では水面の揺らめきと、光を照り返す蓮の葉の複雑な色合いだけが、画面の隅々まで満たしています。水面に蓮が浮いた池、ただそれだけの何でもない光景なのに、キラキラと輝いて浮き立つような軽やかさを感じますね。『不思議の国のアリス』でティーパーティーに招かれたアリスが、「なんでもない日、おめでとう!」と祝われる。あの名セリフをどこか思い出させます。
画面の中に描かれたものはすべて、強い光によってかたちが半ば溶け出しています。距離をとって眺めているうちは、かろうじてモノが輪郭を保っていますけれど、もう一歩、二歩でも絵のほうへ近づくとどうでしょう。何が描いてあるのだか本当にわからなくなってしまい、目の前に広がるのは単なる色の乱舞のみ。でもそれが、目に快く響きます。この光と色の渦の中に、ずっと溺れていたい。そんな気持ちにさせられます。
見る快楽にどっぷりと浸るということ
この続きは有料会員の方のみ
cakes会員の方はここからログイン
読むことができます。