宇多田ヒカルと小袋成彬が出会った必然
柴那典(以下、柴) 今回は小袋成彬さんの話をしましょう。前に我々この連載で「彼が2018年のキーパーソンになるかもしれない」と言いましたが、今年4月にデビューアルバム『分離派の夏』がリリースされることが発表されて、先行曲も配信がスタートしました。
大谷ノブ彦(以下、大谷) 「Lonely one feat.宇多田ヒカル」ね。タイトルも最高、曲も最高!
Lonely one feat.宇多田ヒカル|Spotify
大谷 最近海外のヒップホップとかR&Bをめちゃくちゃ聴いてるんですけど、その感じと全然遜色ない。すごいクオリティですよ。
柴 「Lonely one」にフィーチャリングで参加しただけじゃなくて、宇多田ヒカルさんがデビューアルバム全曲のプロデュースを買って出たんですよね。レーベルの制作とか宣伝も宇多田チームがまるごと担当している。
大谷 宇多田ヒカルさんが本気だしたら、やっぱりこんなすごいんだって思った。この才能を埋もれさせてはいけない、と。
柴 実際、おそらく本気でそう感じたんだと思います。たぶん、宇多田さんも待ってたんじゃないかと思うんですよね。
大谷 待ってた?
柴 宇多田ヒカルという人は、2016年に『Fantôme』というアルバムを出すまで、ほとんど誰とも絡んでなかったんですよ。特に作品の中では誰かをフィーチャリングすることは一切なかった。ずっと一人だったし、ずっと孤高のアーティストだったんですよね。
だけど『Fantôme』で小袋成彬と「ともだち」を、KOHHと「忘却」を歌って、盟友の椎名林檎と「二時間だけのバカンス」をデュエットした。そういう風に、活動休止から戻ってきた宇多田ヒカルさんはそれまでと違っておそらく他の人と作品を共に作りたかったんじゃないかなって思うんです。
大谷 で、出会えた小袋さんを今度はプロデュースするのも自然な流れだ、と。
革新的なのはリズムと言葉の関係
柴 で、この「Lonely one feat.宇多田ヒカル」のどこがどうすごいかという話なんですけれど、「星野源 ドドドドドドドドドラえもんの衝撃」でもすこし話したように、やっぱりヴォーカルの譜割りがすごいんです。譜割りっていうのはメロディーの音符の組み合わせのことなんですけど、特にこの曲の中盤(2:07)で宇多田ヒカルさんが入ってくるところがすごい。
大谷 「上目づかいで カメラに笑顔 向ける少年」ってところだ。
柴 ここ、ちょっと耳馴染みのないリズムとフロウじゃないですか? 「♪う〜わ〜め〜づかいで〜」はすごくゆっくりで、逆に「カメラに笑顔向ける少年」のところは言葉を詰め込んでラップみたいに歌っている。
大谷 従来の日本語の歌とかラップの感じとはちょっと違いますよね。会話の日本語とも違う。