WANIMA以前以降で語られるかもしれない
大谷ノブ彦(以下、大谷) WANIMAのニューアルバム『Everybody!!』がめちゃめちゃ良かったんですよ。ちょっと良すぎるくらい。
柴那典(以下、柴) 素晴らしかったですね。
大谷 ザ・ブルーハーツの『THE BLUE HEARTS』、Hi-STANDARDの『MAKING THE ROAD』、そしてこれって言うくらい、後世にずっと語られるアルバムなんじゃないかと思いますね。
まず、最初から最後まで全部シングルでいいんじゃないかっていうくらい曲がいい。それに彼らって、実はいろんな音楽の引き出しがめちゃくちゃあるじゃないですか。レゲエ的な音を取り入れたり。
柴 そうなんですよね。彼らは3ピースのパンクバンドだけど、いろんな音楽的な素養があって、それを誰もやってなかった形でミクスチャーしている。1曲目の「JUICE UP!!のテーマ」が、まさにそういう曲で。
大谷 これがライブの出囃子になってるんですよね。ここからライヴに入っていく。
柴 これ、四つ打ちのバンドサウンドで始まるんだけど、すぐにラテンのビートが入ってきて、さらに中盤で「タイガー! ファイヤー!」っていうアイドルソング特有のMIXも入ってるんですよ。パンクロックとラテンと歌謡曲がアイドル文化がごちゃ混ぜになっている。言葉数も詰め込んでますし。
大谷 隙あらば掛け声とコール・アンド・レスポンスが入ってきますし。
柴 そういう意味では、アイドルソングやアニソンを中心にどんどん高密度になっていった2010年代のJ-POPの流れの延長線上にいるとも言える。
大谷 まさにそうですね。ハイスタの横山健さんがやってるPIZZA OF DEATHから出てきたからそういうイメージはあんまりないけれど。
柴 だから、大谷さんは「ブルーハーツがいて、ハイスタがいて、WANIMAがいる」とさっき言ったのはまさにその通りなんだけど、音楽的にはかなり異質だと思うんです。
大谷 いや、そもそもブルーハーツだってその当時のパンクの中ではパンクじゃないですよ。ハイスタだって、当時としてはめちゃくちゃ新しいことをやっていた。
柴 ああ、たしかに当時のパンクシーンはハイスタみたいにカラッとしたメロコアをやってポップに成立させる人っていなかったですね。もっと殺伐としてたというか。
大谷 WANIMAもちゃんとポップスとして成立させてるんですよ。痛快なエンターテイメントにしてる。今回のアルバムなんて、通して聴くとオープニングから全部ライブの曲順みたいになってる。後半の「やってみよう」のあとに「エム」「SNOW」とバラードが続いて、「ともに」でもういっかい盛り上がるところもライブの構成っぽい。
柴 たしかに。
大谷 これをパンクと呼ぶか呼ばないかは聴き手が決めればいいだけで。WANIMAはただ売れてるだけじゃなくて、テレビへのアプローチとかもすごくうまい。タフだし強いんですよね。これからバンドを始める子たちが憧れる存在としてのトップになる感じがします。
柴 おそらく日本のバンドシーンはWANIMA以降で変わっていく感じがしますね。