タイトルがフルスイング、1行目の歌詞からすごい
大谷ノブ彦(以下、大谷) 星野源の「ドラえもん」聴きました!? 超絶名曲じゃないですか!
柴那典(以下、柴) いやあ、これは本当にすごい曲ですよ。
大谷 まだ今年始まったばかりなんですけど、すでに僕の2018年のレコード大賞!
柴 最高ですよね。星野源自身、「恋」というあれだけの大名曲が去年の年間チャート1位になるくらいロングヒットした状況があって、とんでもないプレッシャーだったと思うんです。
大谷 ねえ。「Family Song」はありましたけど。
柴 でも、それを軽々と超えてきた。なので、今回はこの曲のどこがどうすごいのかを語っていこうと思うんですけど。
大谷 まずこれ、『映画ドラえもん のび太の宝島』の主題歌なわけじゃないですか。こういう企画性をもとに作られたもの、いわゆるノベルティソングがミュージシャンの本質を浮かび上がらせるだなって改めて痛感したんですよね。
柴 そうですね。それはもう「ドラえもん」だけじゃなく「恋」もそうだし、日本のポップミュージックのいろんな名曲もそうやって作られている。
大谷 で、これはインタビューで星野源自身が言ってたんですけど、「恋」も「ドラえもん」もタイトルありきなんですって。まず「ドラえもん」というタイトルを決めてからあの曲を作った。
柴 これ、意外にすごいことですよ。だってドラえもんの主題歌をオファーされたときに「ドラえもん」ってタイトル、普通は思いつかないですもん。相当フルスイングじゃないですか。
大谷 歌詞もすごいですよね。
柴 Aメロの歌い出し、そこに一番キーワードになる歌詞を入れてるんですよね。
大谷 そう! 「少しだけ不思議な 普段のお話」って藤子・F・不二雄先生が言う「SF=すこし・ふしぎ」のことじゃないですか。そこだけで僕なんか泣けてきちゃって。10代の頃から『少年SF短編集』を大事に大事に読んで、コントを作るときに参考にしてた僕からするとたまんない! ほんと大好き!
柴 歌詞の中に登場人物も出てくるし、ちゃんと物語を踏まえてる。
大谷 しかも「何者でもなくても 世界を救おう」とか、ドラえもんの映画の世界観をちゃんとなぞってるからファンも納得するし。
柴 今回の『映画ドラえもん のび太の宝島』って川村元気さんが脚本なんですよね。
大谷 川村元気さんって、映画の音楽にすごくこだわりがあるじゃないですか。『君の名は。』ではRADWIMPSの「前前前世」を大ヒットさせたし。
柴 米津玄師×DAOKOの「打上花火」も彼ですね。『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』の主題歌だった。
大谷 きっとアーティストに対しても絶対に妥協しない姿勢で臨んでるんですよね。「好きにやっていいんでお願いします」というやり方じゃない。
柴 そうなんですよ。RADWIMPSとも米津玄師とも、かなりバチバチとやりあった先にクリエイションが生まれている。
大谷 だから今回も、かなり注文があったんじゃないかな。
柴 そうかもしれないですね。やっぱり星野源にしても米津玄師にしても、基本的に彼らにNOを出してやりあえるような気概と能力のあるプロデューサーってなかなかいないわけですよ。だけど川村元気だったらそれができる。で、注文があったとしても、星野源はそれを受け止めて、100を120とか150にして返すことができる。
大谷 いやあすごいことですよ。
モータウンコアから笑点ガンボへ
柴 「ドラえもん」の何がすごいかを音楽的に解説すると、まずAメロの譜割りがすごいんです。譜割りっていうのはメロディーの音符の組み合わせのことなんですけど、「ドラえもん」のAメロって、J-POPの分野ではなかなかやられてない譜割りなんですよ。