福山雅治の下ネタがモテるわけ
色っぽくエロくはありたいが、あけすけではないように気をつけている。これは別に私だけではなく、女の人の多くが心がけているフツーの感覚だと思う。「この間、ナンパしてきた男とホテルに行ったらシュウマイみたいな真性包茎で、臭いからコンドームかぶせてからフェラチオしたら、口の中がずっとゴム味でご飯がまずくてたまらん」なんていう会話は、よほど密閉された女同士の空間の中でのみ許容されるのであって、うら若き男子たちがちょっとガールトークを盗み聞きしよう♪ なんていう気軽な態度で盗み聞いたら、割と百年の恋も冷める。
もちろん話題のTPOというのがあって、会社の飲み会ではドン引きされるようなことも、AV女優のサイン会だったらそれなりに歓迎されることもあるし、セックスの最中であれば多少「私のピ——にピ——をピ——して」的な物言いは必然性すらあるのだが、基本的には露骨な下ネタというのは日常生活では避けるに限る。これは別に美人・ブスに限らず、女の人全般に言えることで、石原さとみだろうが吉永小百合だろうが、「本田のシュートかっこよすぎてグッチョリ濡れちゃった」なんて言ったら幾ら何でもドン引きで、だからこそ、脱いだ時の価値が上がるわけですし。
なぜかこれが男になると、下ネタに関して多少あけすけであるほどにさらにモテ度が上がるという現象がある。福山雅治とか星野源とかリリー・フランキーとか、いかにもモテ指数の高い人たちはラジオや深夜番組など限られた場所では割とオープンにエロい話をしているイメージ。逆に性的な話題に顔を赤くして黙り込んだり、口を固く閉ざしたりすると、女々しいとかつまらないとか勝手な評価をされることすらある。ちなみに私は、昔福山がフジテレビの音楽番組「HEY! HEY! HEY!」で披露した、「酔いつぶれて寝ている女を拾って帰った話」がお気に入りです。
エロはおじさんには許されない
そして下ネタを自由に操るイケメンたちを遠目に見ながら、我も我もと実践に移し、もちろん失敗している男たちの数も死ぬほど多い。「やだ、傘持ってなかったからびしょ濡れ」なんて言う女子社員の後ろから、「え、びしょ濡れ〜? どこが〜?」なんて雨の200倍不快指数の高いセリフを吐く上司など登場したら、下手すりゃme too、下手しなくても割と気持ち悪い。
男同士の場でおじさんたちが何を話そうが知ったこっちゃないしどうぞご自由にという感じなのだが、少なくとも辛辣な乙女たちに向かってエロい言葉を言って歓迎されるのは、少なくとも一定数の女性から「あなたになら抱かれてもいい」という評価をされるような男に限るらしい。不公平な話ですよね。でも人生って不公平だし、おじさんは損な生き物何ですよね、ドンマイ。
社会学者の宮台真司とAV監督の二村ヒトシが昨年発表した共著では、性の達人(自称)の二人が結構露骨なセックスの話をするのだけど、如何せんそのお二人が(若い時さぞモテたのかもしれませんが、と棒読みで一応言っておきますが)そんなに「抱かれてもいい」感じではないので、ところどころ不快指数がリミッターを掠る。どれくらい掠るかというと田中康夫と同じくらい掠る。
ちなみに私的な不快ハイライトは二村監督が「男性の肉体的オーガズム、それもペニスで得られる従来の性感ではなく、前立腺や乳首での快楽も研究していきたい」と最近の彼の仕事の方向性について語った後に、「今ここで宮台さんの乳首や肛門に触らせろとは言い出しませんが」と付け加えるところ。
しかも宮台先生は「僕も10代の若い時分には、女子になったつもりで、電車に乗り、街を歩き、しゃがんで排尿して・・・・・・」なんて斜めから一歩上いく返しを見せる。なんで脂ののったおじさん同士の肛門を想像させられなきゃいけないのか。
村上春樹の描くセックス
さて、思いっきり前置きが長くなったが、常に日本人のノーベル文学賞への期待をモリモリ刺激する大作家について、最近私は大変不信感を持っている。近年の、というか初期の作品群を除いた村上作品におけるセックス描写というのは彼の文学を巡る言説の中にも度々登場するし、『スプートニクの恋人』における謎勃起や、『ノルウェイの森』のレディコミ級頻出セックス(未遂含む)などは、私も結構楽しんで読んでいた。
世界中に多くのファンを持つ彼の作品が、新作が発表される度にどんどん強い「ハルキ節」を帯びてくるのは、ある意味で期待通り、またある意味で喜ばしいことでもある。丁寧で独特な比喩やクラシック・ジャズなどの音楽や図書館・料理の描写は、少なくとも日本の文学の系譜において村上作品でしか味わえないものであるし、ファンが期待するのはよくわかる。そして特に近年の作品において彼が愚直にその期待に応えてきたのも、また言うまでもなく歴然としたことではある。
昨年発表され、当然のごとくさらっとヒットした『騎士団長殺し』に至っては、村上自身の村上文学論ともとれるような色味まで帯びた、丁寧で惜しみない彼の仕事の反復的な要素が満載。そしてそこには当然、評論家の渡部直己が「例によって一定の間隔で近所の人妻とのセックスシーンが出てきて」と指摘するように、割と露骨だが静かなセックスシーンが頻出する。
「「どう、十分硬くなったかしら?」と彼女は尋ねた。「金槌みたいに」と私は言った」。
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