——デカルトが生きたのは宗教戦争の時代で、ヨーロッパが大きく分断された時代でした。今の国際情勢もまた分断の時代を迎えつつありますが、分断された世界をどうやって再び統合するのかということが、デカルトの哲学の基礎にあるように思います。
津崎 国際状況に限らず、僕たちはいろんな分断によって切り離されていますよね。男と女、老人と子供、正規職員と非正規職員、自国人と外国人、健康な人とそうでない人、都市出身と地方出身……僕たちはありとあらゆる分断によって毎日切り刻まれています。そうやってあらゆる軸によって分断された私たちの人生を縫合するためのヒントをデカルトはたくさん与えてくれると思います。なぜかというと、デカルトはすべての人に備わっていると考えられる「良識」を信じていたからです。
——良識というのは、デカルトにとってどのようなものだったんでしょう?
津崎 一言で述べれば判断能力です。『方法序説』には、開口一番こうした言葉が出てきます。「良識はこの世でもっとも公平に分け与えられているものである」と。公平というのはつまり分断がないということです。私にもあなたにも等しく与えられている。良識だけは、老若男女、職業の貴賎を問わず、富める者にも貧しい者にも、あらゆる違いを乗り越えて公平に分配されているとデカルトは考えた。その良識は、全員が使うことができるものだと信じていたし、それを発揮することが分断を縫い合わせる方法だと考えたんです。良識ある振る舞いとは何かと言うと、「お前は女だから」であるとか「お前は貧乏人だから」であるとか「お前はまだ学生だから」であるとか、私とあなたを分断するありとあらゆる軸を、どこまでも軽やかに乗り越えていくことです。そうした分断軸に傷ついた私とあなたを再び縫合するための縫い糸が良識なんです。
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