純粋だから不器用?
柴那典(以下、柴) 前回、スターダムに削られる、つまりアーティストがポップスターになることで消耗してしまうことがあるって話をしました。 あのパンクバンドの雄・ハイスタ(Hi-STANDARD)だってそうだった。99年に『MAKING THE ROAD』を100万枚以上売って、翌年にAIR JAMを大成功させて、その後に活動休止してしまった。
大谷ノブ彦(以下、大谷) 仰るとおりです。でも、WANIMAは今までのパンクバンドとはまったく違うと思いますね。
柴 そうか。だからこそ彼らがPIZZA OF DEATHに所属してる意味があるんですね。そうやってハイスタが時代の象徴になって、いろんな荒波にぶち当たって、それを乗り越えてきた。そういうことを全部生身で知っている横山健さんが率いている事務所にいる。
大谷 しかも今の彼らはワーナーからメジャーデビューしましたからね。ずっとインディーズにいるんじゃなくてあえてそうすることを選んだというのも超大事なことで。
柴 そうなんですよね。しかもレーベルはunBORDEで、そこの先輩にはゲスの極み乙女。がいる。彼らだって、どれだけ削られたことか。
大谷 でも結局彼らもちゃんと戻ってきましたしね。
柴 そういう意味でも、スターダムに削られてしまう時期をどう防御するか、もしくはその時期をどうやりすごすかというのは、成功した人が直面する次の問題になる。
大谷 わかるなあ、それ。で、前回、米津玄師さんとか三浦大知さんとか星野源さんとか、今活躍している人はみんな万能だって話をしたじゃないですか。やっぱりキーワードは「万能」だと思うんですよ。万能であれば、その問題に対抗することもできる。
柴 そうですね。たくさんの表現のチャンネルを確保しているから、イメージが固定化されない。
大谷 勘違いしてほしくないのは、万能な人はいろんなことができるから器用に見えるけど、決して音楽に純粋じゃない、ってことじゃないんですよね。 「不器用な人こそ純粋だ」というのは、良くない思い込みだと思う。「俺にはコレしかないから、他に何もできないから」って踏み出さないのが一番キツいですよ。
だって、米津玄師がダンスやってるの、最高じゃないですか。「俺、踊れないから」って言って閉じこもってないで、ああやって踏み出したから、あんな風に誰にも真似ができないダンスができる。
柴 僕もそう思いますね。万能というのは、言い方を変えると、なんでもできるじゃなくて、なんでもトライしている人たちなんですよね。「俺には◯◯しかない」っていうのは、呪いの言葉なんです。ポップスターになろうと思ったら、その呪いは解かなきゃいけない。
大谷 俺もそう思う!
柴 もちろん、目指すのがポップスターでなければ、そのままでも構わないと思うんですけど。
大谷 俺はポップスターになる人の覚悟が好きですね。やっぱり大変なものを背負ってるわけだから。そういう人たちに拍手を送りたいなって思いますよ。
2018年を託したいニューカマー
柴 そうだ、2018年を託したいニューカマーの話もしましょうよ。大谷さん、誰が思い当たります?
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