社会的欲求の承認、つながりについて具体的に例をあげてみます。
承認──教育の中心は知識ではなく自尊心になる
米国の高校では、Self-esteem(自尊心)を感じさせることが、教育の正に中心的テーマになっています。
過度の肥満など生徒の生活崩壊やドロップアウトが非常に多く、社会的問題となっています。自尊心を満たすようなビジネスがもっと伸長していかなければ、全員が普通科高校に進み、大半がいやいや勉強を強いられるという構図が続き、資本格差はこのまま持続拡大していくでしょう。その中では勝ち組・負け組レベルではないところで自己肯定感を保つことが難しくなっています。そこで、アメリカは早々に自尊心を高める教育にシフトしていっているのです。
クックパッドはなぜ成功したのか?
クックパッドとは、素人がサイトにレシピを上げ、掲載されたレシピを実際に作ってみたりしてそのレポートを上げ、ユーザー同士でやり取りができるというサービスです。
クックパッドは、ユーザーの承認欲求を満たすことに注力した戦略をとっており、一時期は機能面だけで見るとはるかに優れている「楽天レシピ」の登場によりクックパッドは低迷するかと思われていましたが、現在のところ同社はその地位を保っています。なぜこんなにも盛り上がったかというと、クックパッドは承認欲求を満たすサービスの形になっていたからです。
クックパッドのレシピ投稿者も利用者も、その中心は主婦です。主婦が自分のレシピを載せると、利用者はそれを閲覧して自分の料理を作り、その写真をさらに投稿する。これが「つくれぽ」という仕組みです。それをみたレシピ投稿者は自分のレシピが評価され認められたとして、満足感が高まり、さらにレシピを公開しようというモチベーションが高まります。するとよいレシピが集まり、利用者にとってメリットが高まる仕組みです。
この承認欲求を満たす好循環のシステムを構築したことがクックパッドの成功の鍵となっています。さらにクックパッドは投稿者のレシピが広く公開されるように工夫をしています。人気レシピのランキングをあえて非公開にし、有料会員のみランキングを閲覧することが可能です。ランキングに課金することで商業上のメリットもありますが、これはクックパッドの投稿者を大事にするという戦略にも適合しているのです。もしランキングが容易に使われてしまえば、ランキングの高いレシピしか利用者は見なくなります。すると露出するレシピのバラエティは限られ、露出される投稿者も一部に限定されてしまったでしょう。
もう一つ例を挙げましょう。
Pixivという、イラストや漫画を中心にしたSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)があります。Pixivは創造欲求を満たすビジネスです。
Pixivでは、自分のイラストを公開したい、評価されたい、という表現欲求がモチベーションになります。ユーザーは、絵単体ではなく文脈で楽しんでいるのです。Pixivは文脈の森、みんなが木を植えて育てており、様々な文脈が膨大に集まった森です。評価やコメントやブックマークやシェアが、水や肥料に当たります。描き手の創造欲求を満たすツールです。
このように、誰かの心が乾いているということをテクノロジーの中で見つけることができます。
そして近年では、ソーシャルな信用評価を事業とする企業も出てきました。
例えば少し前ですが米国の「Klout」は、ソーシャルメディア上におけるある人の影響力を数値化することを本業とし、企業がキャンペーンのターゲット顧客を絞り込むといったニーズに応えました。個人の信用の貨幣化という具体的な数に変化させたのです。今までは、信用力というとクレジットカードの利用履歴だったのですが、そんな時代ではなくなりました。過去にどれだけお金を使って返済したかではなく、その個人がどれだけ社会的影響力があるか、が信用評価に使われています。
この応用例で、ニューヨークでは妥当な講演料を計算するサービスなども始まっています。日本でもタイムバンクやタイムシェアというサービスが立ち上がりつつあります。
つながり
残念ながら日本は友達、同僚、その他宗教・スポーツ・文化グループの人と全く、あるいはめったに付き合わないと答えた比率がOECD諸国の中で一番高いです。日本人はOECDの中で最も孤独な国民であり、所属欲求や承認欲求を満たす財やサービスによってその「孤独」を埋めているのです。
そして、家族の世帯人数は年々減少しており、2020〜30年になると、構成人数が二人になるという想定があります。つまりパートナーと二人家族や母親と子供の構成などです。
そうすると、どこに所属していけばいいのかということを悩む人が増えていくでしょう。特に都市部に出てきた人やグローバルの中でどこに心の置き場所を作るのかということが肝心になってきます。
『嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え』(岸見一郎、古賀史健、ダイヤモンド社)にあるように、「すべての悩みは人間関係である」のは本当です。しかし逆に言えば「すべての幸福」の源泉もまた人間関係にあるのです。