柴 那典の国内1位
柴 那典(以下、柴) 前回「2017年ヒットチャート総括」ということでBillboard JAPANの年間チャートを見ながら話しましたけど、今回は我々が、国内・海外それぞれの、今年のアーティスト・オブ・ザ・イヤーを発表しましょうよ。
大谷ノブ彦(以下、大谷) じゃ、J-POPからいきましょうか。柴さんは誰でした?
柴 僕は米津玄師ですね。『BOOTLEG』というアルバムがダントツだった。
大谷 あー、絶対出してくると思った!「米津玄師がぶっちぎっている理由」でも絶賛していましたもんね。
柴 前回の「2017年ヒットチャート総括」で2017年のキーワードは「万能」だった、という話をしたじゃないですか。そう考えると、まさに米津玄師って万能なんですよ。
大谷 そうですよね。曲を書いて歌うだけじゃなくて、ジャケットのイラストも自分で描くし、「LOSER」からはダンスも踊り始めた。
柴 DAOKOと「打上花火」をやったり、菅田将暉と「灰色と青」をやったりしてる。いろんな人と幅広く一緒にコラボできるという意味でも「万能」なんですよね。
大谷 僕、この「LOSER」が2017年を象徴する一曲だと思うんですよ。BECKに「LOSER」って曲があるじゃないですか。そこでは「俺は負け犬さ、殺すなら殺せよ」と歌ってた。あれって90年代オルタナティブの精神性の代表だったと思うんですよね。
柴 そうですね。退廃的というか自嘲的というか。
大谷 米津くんの『LOSER』も同じ「負け犬」がテーマの曲なんだけど、〈アイム・ア・ルーザー どうせだったら遠吠えだっていいだろう もう一回もう一回行こうぜ 僕らの声〉と、いまの若者たちに向けてエールを送っている。今の時代の日本にアップデートされてる感じがするんですよ。
柴 この曲って「イアンもカートも昔の人よ 中指立ててもしょうがないの」って歌詞があるじゃないですか。イアン・カーティスとカート・コバーンという若くして亡くなったロックスターの実名を出してるのって、すごく大事だと思うんです。彼らの文脈を踏まえてるんだということが聞けばわかる。
大谷 でも過去を否定してるわけでもないんですよね。
柴 そうそう。カート・コバーンが代表する90年代のオルタナティブの精神を継承してる。
大谷 でも退廃とか自虐だけじゃないんですよね。いろんなものを失ってしまっても、その果てに死んでしまうんじゃなくて。「聞こえてんなら 声出して行こうぜ」って歌ってるんですよ。それが誰かにとっては遠吠えに聴こえたっていいんだって。
柴 彼にはきっと、今の時代の日本を生き抜いていく若者をちゃんと先導していこうという意識があるんだと思います。
大谷 いやー、そりゃね、こんなこと言われたら、米津くんは1位ですよ。
大谷ノブ彦の国内1位
柴 大谷さんのアーティスト・オブ・ザ・イヤーは誰ですか?
大谷 米津くんはかぶると思ってね、僕のアーティスト・オブ・ザ・イヤーは三浦大知です!
柴 おお、なるほど!
大谷 これまで2017年のキーワードが「万能」だったっていうことを話してきたじゃないですか。三浦大知って、まさにそれなんですよ。
柴 たしかに。歌もダンスも圧倒的ですもんね。
大谷 いや、これは三浦大知さん本人が言ってたんですけど、歌だけだったら自分より上手い人がいるし、踊りだけだったら自分より上がいるって。だけど、歌を踊りを足したならば、自分にしかできないことができるって言うんです。
柴 なるほど。総合力の勝利だ。
大谷 これが今のポップスターのあり方なんですよ。すべての分野でナンバーワンじゃなくても総合力で万能になるんです。それってエド・シーランにも通じるんですよ。
柴 三浦大知はもともと評価は高かったですよね。
大谷 和製マイケル・ジャクソンみたいに言う人も多かったですしね。それに、彼は海外とも波長をあわせて最先端のブラック・ミュージックをやってきた。だから今までちょっと通好みみたいなイメージもあったと思うんです。
柴 孤高の存在っぽいというか。
大谷 でも、今年はいろんなコラボで、自分自身を大衆化させたんです。『めちゃイケ』に出てナインティナインと一緒に踊ったり、『FNS歌謡祭』でゆずと一緒に歌って踊ったり。
柴 その一方でMIYAVIともコラボしてますしね。
大谷 完全に音楽のジャンルから解き放たれていますよね。
柴 三浦大知はアジアでもツアーをしているし、グローバルなポップミュージックのシーンの動向を熟知しているわけですよ。だけど、海外で流行っているものをただ取り入れてるからすごいんじゃなくて、それをちゃんと日本のJ-POPの文脈に落とし込むフィルターがとても高性能なんですよね。
大谷 そうそう!
柴 今のグローバルな音楽シーンって、いろんな人と垣根なくフィーチャリングできるのはやっぱり万能な人なんですよ。だからエド・シーランはビヨンセとデュエットをやるし。じゃあそれを日本の文脈にどう落とし込むかというところで、米津玄師は菅田将暉と、三浦大知はめちゃイケで岡村さんとやれるっていうね。
大谷 僕、エンターテイナーを引き受けるってこういうことだなと思って。 それにいよいよ紅白にも初出場ですからね。今まで実力は誰もが認めるのに、いまひとつ大衆まで届いていなかった印象があったけれど、今年になってやっと伝わった。「優勝!」って言いたくなるんですよね。
柴 那典の海外1位
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