M-1は権威になった
柴 M-1グランプリも終わり、2017年もいよいよ年の瀬ですね。どうでした? 大谷さん。
大谷 いやあ、M-1最高でしたよ。一番象徴的だったのが、ジャルジャルが敗退した時に福徳くんが悔しくて涙流してた。で、その後のトークの時に後藤くんがゆるいボケを言うんですけど、それに福徳くんが頭をかきむしりながら「おまえ、ようボケれんな、いま」って。あの一言がたまんなかった! 映画『火花』の一場面みたいで。
柴 グッときましたよね。あの一言の背景にいろんな物語を読み取れるというか。
大谷 あと、マヂカルラブリーが軒並み得点が低くて、審査員の上沼恵美子さんに酷評されてましたよね。でもその後、本番中にツイッターで「大恥かいた」ってつぶやいたら1万以上リツイートされて、「マヂカルラブリー」がトレンドワードに入っちゃった。つまりスベっても自分たちでフォローしちゃった。
柴 しかもテレビの外側でそれをやってるわけですね。
大谷 こんな角度での楽しみ方があるんだ、すごいなって思いましたね。で、優勝はとろサーモン。15年ずっと何もなかったという物語性を一番持ってるヤツが結果的に勝った。そういうロッキー的なスペクタルも最高だった。
柴 そうですね。それに、とろサーモンと和牛が優勝と準優勝になったことで、ちゃんと漫才がうまいコンビが勝つ競技会なんだというイメージも守られた。
大谷 これって、M-1グランプリというものがちゃんと「権威」になっているということだと思うんです。漫才が競技化して、そこに向けて芸人たちが1年間かけてネタを仕上げているということを、観てる人の多くが踏まえて楽しんでる。
柴 たしかに。若手芸人の人生がこれで変わっちゃうわけですからね。『THE MANZAI』みたいな他の番組じゃこうはならない。
大谷 そうやってM-1が権威になってるからこそ、お笑いって、ネタの内容だけを語ること以外に楽しさがうまれるんですよね。これって、音楽番組だとMステがそうだと思っていて。
柴 Mステが権威になっている?
大谷 そうなんですよ。出ること自体が話題になり物語になる。たとえばBiSHがこないだ初出演して「プロミスザスター」を歌った時にも、ファンがSNSで一緒になって盛り上がっていて。そのツイートの一つ一つがエモくて、いいなあって思ったんですよね。
紅白歌合戦
柴 権威と言えば、紅白歌合戦も間違いなく権威ですよね。
大谷 間違いない。だから「今年はこんなやつが出てきた」というのを楽しめるようになっている。
柴 まさに。今年は10組が初出場ですけど、なかでもエレファントカシマシ、竹原ピストル、SHISHAMO、WANIMAという並びがおもしろいと思っていて。
大谷 最高ですね。
柴 というのも、ここ最近の紅白って、音楽以外のエンターテイメントとか企画性を重視して、とにかく画面を賑やかにするという進化が続いてきたわけじゃないですか。
大谷 特に序盤はそうですよね。
柴 でも今回はその反動というか、じっくりと歌を聴かせることへの回帰だと思うんです。だって、エレカシも竹原ピストルも、電飾がキラキラ光ったり後ろで女の子が踊るような曲はないですし。
大谷 実際、去年に島津亜矢さんが出てきた時に「なんじゃこの歌のうまい人!」って思って。そういう生き物として破格の人を目撃するというのが大きいんじゃないかな。
柴 WANIMAとSHISHAMOという若手バンドが出るのも大きいですよね。
大谷 そうなんですよ。だから来年以降、ちょっとバンドが盛り上がるんじゃないかと思っていて。ああいうバンドが紅白に出るのを観て、ギターとベースを買いに行く子が増えるなと思ってるんです。
柴 たしかに。アメリカだとヒップホップとかR&Bに押されてロックに元気がないって言うけど、日本ではまだまだバンドに勢いがある。
よみがえるオルタナティブ
大谷 あ、でもね、柴さん。海外でもいいバンドがいるんですよ。