退院後の週末、一人暮らしの部屋を引き払うため、京都に行くことにした。
土岸が車を出してくれ、二人は京都に向かって車を走らせた。
「また向こうに住もうと思ってたんだけど……」
「しょうがねえよ。復帰したら、また新しい部屋を借りればいいだろ」
どうにか京都に戻ってまた住もう、と思っていたので、彼はちょっと落ち込み気味だった。
だけど今の状態では、いたしかたがないことだ。
京都まで片道四六〇キロ、時間にすると六時間くらい、土岸はずっと運転をしてくれた。
京都の部屋に着くと、ポストに亜也華ちゃんからのエアメールが届いていた。
ドアを開けて電気をつけると、薄暗い部屋が浮かび上がる。
「お前、ブレーカーくらい落としていけよ」
「あ、そうか。忘れてた」
一ヶ月半ぶりに見る部屋は以前のままだったが、見るからに人が住んでいないという感じで、寒々しかった。
壁際にアイロンが置かれているけれど、こうして見ると意味がわからない。
「さっさと片付けるか」
土岸が率先して片付けを始めた。
少ない荷物をトランクに積み込み、ゴミを出して、カーテンを外す。
部屋はあっという間に、布団だけを残した直方体の空間に変わる。
翌日、不動産屋に鍵を返し、また東京にとんぼ帰りした。
「ありがとな、土岸」
「おお。他にも行きたいところがあったらいつでも言えよ。ただし飯はおごれよ」
土岸は帰りも六時間くらい、ずっと運転をしてくれた。
土岸が大病をしたら、自分も何でもしてやろう、と思ったが、そんなことにはならない気がした。
返せない借りや、返せない恩というものが、この世にはあるのかもしれない。
日野に着くと、疲れてしまってすぐに寝た。
動くとすぐに息が切れるし、ずいぶん体力が落ちてしまった。
翌日、彼は亜也華ちゃんからのエアメールを開いた。それはいつになく長い手紙で、写真も何枚か入っていた。