年度初めでばたばたしておりますが、お元気でしょうか。さて前回から大事件がいくつかあって、たぶんぼくや読者のみなさんにとって最も影響が大きいのは、日本銀行の総裁交代と、そこで採用されたインフレ目標。2年後に2%のインフレ率を目指すというやつだ。
ご存じの通り、ぼくはずっと(1998年以来)このインフレ目標政策=リフレ政策の旗を振ってきて、翻訳でもコラムでも、ことあるごとにそれを紹介と後押ししてきたつもり。理屈としても単純明快。景気を刺激するには金利を下げるのが普通だけれど、ゼロ金利だとそれができない。でも、インフレになるとみんなが思えば、ゼロ金利でも実質的に金利が下がったのと同じ効果がでる——要はそれだけの話なのだ。初めて読んだときは、「なんだ、コロンブスの卵みたいな話だ」と思ったし、2~3年ですぐ採用されると思っていたら……なんとまったく採用の気配がない。
20年にわたり日本は停滞し続け、無責任な知識人どもはそれについてきちんと批判するどころか「もう経済成長の時代は終わった」「日本はこれから美しく衰退するばかり」「モノの豊かさより心の豊かさ」なんていうお題目で、かえって停滞を賛美するという始末。でも実際には、貧すれば鈍す。貧しくなり、就職難や失業が増えれば、みんな自己中心的になり、たいしたことない生活保護だの在日特権だのを騒ぎたて、つまらないナショナリズムをたぎらせ、大学3年生からシューカツとやらで、物質的にも精神的にも追い詰められたゆとりのない状態がどんどん悪化している。
でも、インフレになるという期待を作るのは無理とか、一方でそれをやったらハイパーインフレになるとか、馬鹿な話がずっと続いてきて、しかもその最大の反対者が日本銀行自身という状況が延々続き、ぼくは昨年夏の時点でも、もうこの政策が現実になる可能性をあきらめていたほど。
ところが安倍総理が登場し、あれよあれよとこの政策がアベノミクスの前面に。でも、これまであまりに裏切られ続けてきたもので、新しく日銀のトップとして黒田総裁が決まった時点でも、なんかチマチマした政策でお茶を濁されるのでは、と多くの人が半信半疑だったんだが……。杞憂でした。4月頭の日銀会合で、黒田総裁はデフレ派はもとよりリフレ派すら驚愕する大胆な施策をうちだし、さらに抵抗勢力になると思われた審議委員たちがコロッと宗旨替え。やった!
この突然の変化に、多くの人(特にこれまでリフレ政策に対してデタラメまじりの批判を展開してきた人々)は戸惑っていて、これからどうなるのかについてまだまだ混乱した議論があちこちで見られる。が……みなさん、読むべき本は1冊だけ。片岡剛士『アベノミクスのゆくえ』(光文社新書)。これはすごい。このタイミングで、ここまで踏み込んだ本が出るというのは信じられないタイミング。
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