自分の全情熱を、この仕事にかけよう。
走り続ければ見えてくるはずの未来を、この手につかもう。
期待されることに全力で応え、もっと期待されるようになろう。やれることはなんでもやろう。
配給会社で働けることになった彼は、プロミネンスの渦のように激しく燃えていた。
フルタイムのアルバイトという立場だが、いきなり社員扱いしてくれるという話だった。
職場環境は厳しいらしいが、そんなことはあまり関係ない。
彼はともかく働ける喜びに、打ち震えていた。
初日、事務所に行くと、次から次から次から次に雑用を頼まれた。
電話応対をし、大量の郵便物を出しに行き、お使いに行き、冊子をコピーし、書類をまとめたり配ったり整理したりする。
だがそれらは単なる雑用に過ぎず、本当の仕事は別にあった。
「じゃあ君は明日から店舗回りをして。お店にチラシを置いてもらって、枚数を毎日報告する。まずは渋谷から。名刺は乾からもらって」
早口でしゃべった女性の部長が去っていく姿を、彼は胸いっぱいの気持ちで見守った。
何やら重要そうな仕事を任されてしまった。しかも自分の名刺をもらえるらしい。
乾さんというのがどこにいるのかわからなかったから、彼は会社中を探し回った。
「小森谷です。よろしくお願いします」
「あ、そう。ちょっと待ってね」
乾さんという女性は、書類に何かを書き込んだ。しばらく経つとボールペンを置き、何かを考える仕草をした。
それからいきなり立ち上がって歩きだした彼女に、慌てて付いていく。
「チラシはここ。先にこっち。終わったらこっち」
事務所の奥の倉庫のような場所に、チラシの入った段ボールが積んであった。
全部で十万枚くらいあるらしいが、それを彼が一人で配るらしい。
「あの、渋谷のどこに配るんでしょうか?」
「自分で考えて。配ったら報告して。名刺は明日渡すから」
乾さんはそれだけ言うと、すたすたと去っていってしまった。ここで働く人は皆、とてつもなく忙しそうにしている。
翌日、雑用を済ませた彼は、持てるだけのチラシを抱えて、渋谷に向かった。