パリで一児を育てる、日本人女性にインタビュー
今回紹介するのは、お菓子・パン職人としてパリで働いている日本人女性です。在仏9年目で今年34歳のDさんは、5年前にフランス人男性と結婚し、現在4歳の女の子の母親でもあります。
海外、しかもパリでフランス人男性と結婚して子供を授かり、自分のやりたい仕事を手にして……と、一見、順風満帆に見える彼女の人生。ところが、今回インタビューさせてもらって、「家族をつくって生活していく」ということは、こうもきれいごとや理想どおりにいかないものか!と感じました。
ほんと、これはパリに住んでみるとよ〜くわかるのですが、いくら「華の都」と言ったって、実際にあるのは、異国での異国人としての日常生活。実情はキラキラよりも、むしろ日本では考えられないような質素さや、ワイルドさ、そして、ぶっ飛んだ価値観が入り乱れています。パリに住んでいる日本人女性も色々ですが、彼女たちは全員、日々サバイバルしているのです。
さて、今回インタビューするDさんも、そんな日本人女性の1人です。パリでの予期せぬ妊娠と結婚生活を経て、現在は、愛娘とプチうつになってしまったフランス人の夫を家族に持ち、たくましく生きています。
フランスで家族を持った日本人女性が、どんな風に自問自答しながら、彼女自身の人生をパリで 生きているのか? 今回も、じっくりとお話を伺ってきました。
パリで気づいた、パン作りの魅力
—— パリに来るまでの経緯を教えてもらえますか?
Dさん 高校を卒業してから、お菓子の専門学校で学び、関西や東京のケーキ屋さんでパティシエとして働いていました。でも、最後に働いていた東京のケーキ屋さんのシェフが、女性パティシエにまで暴力をふるうブラックな職場だったので、一旦退職しました。それからは、元々フランス人が作るフランス菓子に興味があったこともあり、地方の山奥にある旅館で1年近く仲居さんのバイトをして、フランス行きの資金を貯めることにしたんです。
フランスに来たのは2008年。ワーキングホリデービザを使った1年限定で、最初はルーアンと呼ばれる地方にホームステイしながら、フランス語を勉強することにしました。出身が田舎なこともあって、パリのような大きな都会でいきなりよりは、地方の方が物価も安いし、いいなと思ったんですね。
でも、やっぱり大きなパティスリーの多くはパリにあるので、研修先もパリの方がみつかりやすく、3ヶ月後にはパリへ移住して、有名なパティスリーで研修をスタートすることになりました。
Dさんはこの頃から、実はフランスのお菓子ではなく、パン作りに興味を持つようになったそうです。そして、あっというまに過ぎた1年の期限後、またビザをとってパリに舞い戻り、今度はパンの研修生活をつづけることに。
Dさん パティシエもパン作りに近いところにいるものの、パティスリーの現場で知れることには限界がありました。そこで、一からパン作りを勉強すべく、色々なパン屋さんを転々として、研修をさせてもらうことにしました。
パン作りとお菓子作りの違いは、パンの方がシンプルな分、逆に難しくて奥が深いということ。ちょっとした素材や、その日の温度や湿度の変化によって、味がずいぶん変わってしまうんです。一方お菓子は、色々なものを組み合わせて作り上げるので、いくらでも美味しくなる余地もあるし、作り込む芸術的な要素が強いんですね。
どちらかというと、パンは職人が作るものという感じです。私はパンを作っている時、生き物を触っている感覚がして、今はお菓子より、パン作りのほうが好きになっています。
滞在を延長し、パン屋で研修を続けていたDさんも、3、4年したら地元に戻って、自分のお店を出そうかなという計画を考えていたそうです。ところがある日、いつも通りパン屋に出勤して作業をしていたら……。
Dさん 生地をこねていたときだったか、なんだが具合が悪くなってきたので、おかしいなぁ……なんでかなぁ、と。すると、一緒に働いていた同僚に、冗談で「もしかして、妊娠してるんじゃない?(笑)」なんて冷やかされてしまったんですね。念のため、近くの病院にかけこんだところ、検査してくれた先生に「あなた90%の確率で妊娠していますね」と言われたんです。 その時交際していたフランス人の彼と同棲を始めて1ヶ月頃だったんですが、何も考えてなくて、そのまま妊娠(苦笑)。はい。それでデキ婚ということになりました。
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