左から、海猫沢めろんさん、鳥飼茜さん、荻上チキさん B&Bにて
無痛分娩にかかる圧
荻上チキ(以下、荻上) 育児の分野だと、「苦労したもん勝ち」みたいな謎の規範はあるよね。無痛分娩とか。
鳥飼茜(以下、鳥飼) ありますね。私も無痛分娩だったから。
海猫沢めろん(以下、海猫沢) ええっ。
荻上 「ええっ」てなによ、「ええっ」て。
海猫沢 いやいやいや(笑)! 違う違う、違います。僕も無痛分娩に賛成なんだけど、なんか、自分の友達は麻酔をやってもダメで、麻酔医がいない時間にきちゃって。
鳥飼 あ〜。
海猫沢 無痛分娩予約してたのに、ダメだったみたいな。なぜかぼくの周りはそういう人が何人もいるんですよ、なので、スムーズに無痛って珍しくて(笑)。
鳥飼 陣痛が予定より早くきちゃったらダメなんです。まあまあ、出産ってそういう思うとおりにならないところはあります。
荻上 いまフランスやアメリカではだいたい無痛分娩ですよね。向こうの人に無痛じゃないっていうと逆になんで?って聞かれるぐらい。
海猫沢 自然分娩を推奨する人は、歯医者どうしてるんですか? 歯医者で麻酔しますよね。おかしくないですかっていう。
荻上 ロジックを整えるなら、痛みを感じてこそ歯を大事にしようと思うんでしょうか。
鳥飼 ロジック(笑)。
荻上 無痛分娩に限らず、ある規範があって、その身体イメージから外れたものは叩かれるっていうのはずっと繰り返されてきたわけですよね。
鳥飼 まあでも、日本だと環境整備の問題もあるでしょうが、無痛分娩はもっと普通になってほしいですよね。
愛情のない育児の可能性
荻上 ワンオペ育児※っていうじゃないですか。一人育児させるのはかわいそうだから、必ず二人でツーオペでやりましょうみたいな。それで、男女の対立というか、男性の「参加」の問題になりがちで。
それは現段階では大事なんだけど、そもそもツーオペかワンオペかという選択肢になるのがおかしい、というところまで行ってほしいよね。この小説で書かれているように、もっとシェアしましょうと。ワンオペじゃない、シェアオペだと。ソーシャル育児だと。なぜ家庭に丸投げなんだ、と。
※ワンオペ育児:パートナーの単身赴任や病気など、なんらかの事情によって、ひとりで育児を行うこと
海猫沢 そうなんですよね。
荻上 『キッズファイヤー・ドットコム』では、ひとつのテーマとして、「愛情がない子育て」をどこまでうまく達成できるかっていう問題提起があるってお話を以前してましたよね。
海猫沢 はい。やっぱりそこが大きな問題だなと。
「子どものために寄付? なんなのそれ、ハァ? 子供のために働くのが親の勤めでしょ」
「瀬里奈さん。そういう構造を俺たちは変えたいんですよ。誰もが子供のために生きられるわけじゃないんです」
「でも子供って愛の結晶でしょ! 愛し合ってた時の思い出だけで頑張れるじゃん!」
(中略)
「瀬里奈、君は子供が愛の結晶だと口にした。しかし、それは、愛のない家庭に生まれた人間にとっては、自分の存在を拒否されるような暴力的な言葉だ」
(中略)
「愛なしで子供を育てることができたら、それは世間でいう薄っぺらな愛情より素晴らしいものになるのかな」
『キッズファイヤー・ドットコム』より
荻上 鳥飼さんの『地獄のガールフレンド』もそうだけど、もともと地域とかも含めて育児をシェアする前提だったら、親一人だろうが、ワンオペにしてたら、旦那ひどいとか、妻ひどいとかっていうそういう話ではなくて、社会の問題になる。
海猫沢 両親の愛情を前提としなくても、うまく育児をシェアすることでフォローできる仕組みが社会として考えられれば、もうすこしいろんなことがマシになるんじゃないかって。
荻上 その方向に行くには、いろんなサポート体制の整ってなさの方にこそ、目を向けていくっていう発想が必要だったりする。一つの問題提起ですよね。
貴族は育児を分担していた
この続きは有料会員の方のみ
cakes会員の方はここからログイン
読むことができます。