ブスだって自分の顔を10分も見せられたら石灰ぐらいになってしまう
「自分自身が無知であることを知っている」。
ソクラテスの哲学だ。自分が無知であることを知っているだけ、相手より優れているという「無知の知」である。
それが成り立つなら、「ブスのブ」という言葉もありだろう。
自分がブスだと知っているだけ、それを知らないブスより優れているというわけだ。
しかし、これは状況による。場合によっては、知らないほうがいいときもある。
例えば、美容院などがそうだ。散髪店というのは、たとえ10分1000円のカットだろうが、絶対に目の前に鏡がある。つまり、最低10分間はブスだとわかっている自分の顔と、フェイスtoフェイスなのである。
メデューサが自分の姿を鏡で見せられたとしたら石になってしまうように、ブスだって自分の顔を10分も見せられたら石灰ぐらいになってしまう。どれだけ視線を雑誌やスマホに向けても、ふと顔を上げると自分の顔があるのだ。『影牢』でも見ないような悪質な罠である。
10分ならまだしも、小一時間も見ていたら、一週間前はなかったシミがあるとか、変なところから毛が生えてるとか、今まで知らなかったブスにまで気づいてしまい、「ブスのブ」がさらに深まってしまうという話なのだ。
だが、これは自分のことをブスだと知らなければ平気だろうし、むしろ美人でも自分の顔が好きじゃないなら苦痛だろう。
このように、美容院とは古より戦いの場である。敵は美容師と思われがちだが、結局は一人相撲な場合が多く、つまりは「己の自意識との戦い」なのだ。
美容師がどう思おうが関係ない。この私が、このブス様が気になるのだ
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。