彼女たちの結婚がきっかけで、友情の形が変わった友達、変わってしまった友達が、思い浮かぶだけで3人いる。
一人目は、青森出身の年上の女友達で確か私が20歳くらいの時に知り合った。8歳年上の彼女は、滅多にいないくらいの美人だ。よく覚えていないけれど、多分、飲み屋で知り合って、家が近所と知り、意気投合したような気がする。彼女は18歳で上京し、服飾系の女子大に進学、その後、歌手の衣装を作る仕事やアパレルの仕事をしていた。
私が出会った頃は、ちょうどアパレルの仕事を辞めて、エステ系の仕事がしたいと言っていた頃で、ひとりでタイに行って、タイ古式マッサージの免許を取ったり、実際にお店をオープンしたりと、めちゃめちゃバイタリティーと行動力のある人だった。サバサバしていて正直者で、年上だけれど全然そんな感じもしなくて、今思い返しても、悪いところがひとつも見つからない。
強いて言えば、美人なのに、人がよすぎるくらいよすぎるところ、あまりにも損得を考えなくて、損することが多いところくらいだ。でも、本人はきっと、それでいいと思っている。しょっちゅう、ご飯を食べたり、家に遊びに行ったり、益子焼を焼きに行ったり、温泉に行ったりもした。こう書くと、ものすごいベッタリのように感じるけれど、そんなことはなくて、とても心地よい距離にいた。
そんな彼女が、39歳の時、突然、青森に帰ると言い出した。それを聞いた私は、まず「本気で言ってるのかな?」と思った。青森の暮らしより東京の暮らしの方が長いのに、今更そんな田舎に帰ってどうするんだろう。そんな私の気持ちは、そのまんま顔に出ていたのだろう。「ビックリだよね〜」と言いながら、お正月に帰省した時の同窓会で、中学生時代の同級生と再会、意気投合して付き合うことになったこと。その人はとてもいいやつで、地元の役場に勤めていること。そして、妊娠していることをとうとうと話し出した。
話を聞けば聞くほど、なんとなく選ぶ相手も田舎に帰ることも彼女らしい気がして、納得なような、いや、でもやっぱり納得できないような……淋しさもあって、心から「おめでとう」とは言えなかった。
それから彼女はバタバタと忙しくなったのだが、何度か電話をもらい、引っ越しの日が決まったとか、向こうで新居を決めてきたとか、今青森にいるとか、結納したとか、仕事をどうするとか、様々な報告を受けた。
一連が落ち着きしばらくして会うと、彼女のお腹は大きくなっていて驚いた。「東京最後の夜、一緒に過ごそうよ」そう彼女に言われて、最後の日は大江戸温泉にお風呂に入りに行き、渋谷のセルリアンホテルに泊まることにした。
もうすぐ始まる、私が書いていたドラマの話をしていたら、「楽しみにしてたんだけど、うちの方、フジテレビ映らないのよ」と言われ、余計にがっかりしたのを覚えている。そんな田舎に彼女をさらってゆく、役場に勤める夫となる人を恨めしく思った。最後の夜は、どんな内容かは忘れていたけれど、朝まで喋りに喋ったような気がする。今まで何度もあったこんな夜も、もう二度とないのだなと思いながら……。
翌朝、渋谷駅から山手線に乗り、東京駅まで見送りに行った。喫茶店でモーニングを頼む時、お腹の大きな彼女は大のコーヒー好きなのにオレンジジュースを選んだ。新幹線の時間が近づき、いよいよ本当にお別れの時が来た。私はとうとう、「おめでとう」と言えなかった。