「あれ、ひょっとして百鳥……ユウカさん?」
実家に戻る前に、コンビニに寄った百鳥ユウカを後ろから呼び止める声があった。
声の主は、駐車場で自分の車から降りて、ベビーカーを押している。
ユウカは振り向くと、声の主の姿を足元から頭の先まで2度繰り返しみてみたが、どうにも思い出せなかった。デニム地のショートスカートに、上半身はシンプルに白Tシャツ。内側からはちきれんばかりのボリュームの乳房が白Tシャツの胸部を大きく盛り上げている。セミロングの長さの髪の毛は裾を軽くカールさせていた。
「あの、どちらさまですか?」
「一中で一緒だった毛利真由美だよ。いまは緒方だけどね」
「え? 嘘! ソフトボール部で一緒だったモリチン?」
「そうそう! こんなところで会うなんて奇遇じゃーん」
「きゃー」
コンビニの入り口で嬌声をあげあう三十路の女ふたり。店内からの冷たい視線を感じて声を潜めて、とりあえずコンビニの店内にそそくさと入る。ベビーカーを見ると、まだ小さい男の子がはしゃいでる母親を不思議そうに見上げている。
「この子、モリチンの子? いくつ?」
「ほら、たかゆき、ママの友達に歳を教えてあげて」
男の子は二本の指を目の前に出して、「にさい」と答えた。
「モリチン、よかったらお茶でもしにいかない? 駅前に新しくカフェができてたよ」
「ん? そんなカフェとかいいわよ。子どももいるし、あそこでいいじゃない」
毛利真由美が指差したのはレジの横にある、狭いイートインスペースだった。
ユウカと真由美は店内で飲み物を購入すると、ベビーカーをイートインスペースに押し込んで、丸椅子に腰掛けた。たかゆきは、ベビーカーの中でアイスを食べている。
「ユウカ、結婚は?」
「まだだよ。モリチンは、子どもまでいるのにね」