「コミュニケーションの本質はなんだろう?」と考えたときに、核となる技術は「伝わる」ことだろう。
伝えることは誰でもできる。話せばよい。見せればよい。聞かせればよい。だが、人を動かすことはできない。人を動かすのは、その内容が「伝わった」ときだ。コミュニケーションは、伝わることが難しいのである。
「伝わること」の本質を知っている人は、どんな仕事でも成果をあげる。たとえば、
・教師
・マーケティングプランナー
・営業
・エンジニア
・芸術家
・作家
・音楽家
・コメディアン
など、多岐にわたる分野で「伝わる」ことは重要だ。
現代では「つくる」だけではなく、「伝わる」ことを考えなければならない仕事ばかりである。伝われば、相手は動き、変化し、感動し、感化される。 優れた表現者が尊敬を集めるのは、その影響力の大きさゆえである。
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では、「伝わる」とはなんだろうか。単に「伝える」だけではなく、「伝わる」表現をものにするためには何をすればよいのだろうか。
いくつか知っておくべきことがある。
1 「伝わる」のは、相手が聞きたい(見たい)と思うものだけである
見たくないもの、見ようとしないものは、基本的に見えない。
・たとえば、ある会社で「リストラ」があるという話が出るとする。しかし、皆「自分には関係がない」と思う
・年金を含む社会保障が破綻寸前だと知らされても「他人事」と思う
・ 40 歳にもなれば、あと人生はせいぜい 40 年であるが、「死ぬのはまだまだ先」と思う
古代ローマの政治家ユリウス・カエサルの言うとおり、人間は、自分が見たいと欲するものしか見えない。無理やりそれを見せようとすると、人は反発し、怒る。 現実と理想の両方を見ることのできる人は、稀有であるし、それは一種の才能であるから、それを相手に期待してはいけない。
したがって、「何を言っても伝わらない人」は存在する。そのようなときは時間をかけなければならない。待つこと、状況が変わることを待たねばならない。
そのような意味では「先送り」が正しい判断のときもある。厳しい現実を受け入れてもらうには、時間がかかる。
2 「感情」抜きには、伝わらない
論理によっては伝わらない。論理によって伝わる人は、これもまれである。それを相手に 期待してはいけない。
人に最もよく伝わるのは、感情であったり、心の動きであったりする。数学者よりも音楽家や画家が伝わる表現に秀でているのは、このためである。感情を喚起しなければ、人には伝わらない。
したがって、本当に伝えたいことがあるならば、説得しても無駄である。ストレートに伝えてもあまり効果はない。何かのエピソード、ストーリー、色、音楽、味覚、匂い、視覚表現など、別の形の表現をとる必要がある。
たとえば、グルメ漫画で、相手にうまいものを食べさせ、籠絡するストーリーはもはや定番であるが、それが受け入れられるのは、我々が論理ではなく、感覚の生き物であるからだ。
・ある会社では、「会社の危機的状況」を知らせるために漫画をつくった。論理ではなく、感情に訴えた
・ブログや雑誌などで炎上を意図的に発生させる人があとを絶たないのは、これを知っているからである
・アル・カポネは、「やさしい言葉に銃を添えれば、やさしい言葉だけのときよりも多くのものを獲得できる」と言った。恐怖で人を支配する試みがなくならないのは、このためである
あなたのアドバイスが目の前の人に伝わらないのは、論理によって伝えているからだ。熱意を、感情を伝えなければならない。
3 人は「誰に言われたか」を重視する
同じことを言ったのでも、あなたが言うのと、ビル・ゲイツが言ったのとでは異なる影響力がある。それは不合理ではなく、人間性の本質である。
目の前の人が、「誰からの話なら聞くのか」は重要なことである。
・CMに芸能人が起用されるのは、このためである
・紹介が最高の営業であるのは、このためである
・虎の威を借る狐が有効なときもある
・有名人のセミナーが好まれるのは、このためである
したがって、あなたが表現しても「伝わらない」のであれば、あなたが変わらなければならない。あなたが権威を備えなければならない。あるいは、ほかの人に言ってもらわなければならない。