何だここは、と彼はその規模に圧倒された。
最寄りの駅から十分ほどの道を上ると、大学のキャンパスに着く。丘陵地をそのまま活かした広大なキャンパスは、まるで一つの都市のような感じだ。
学生だけで二万人いるらしかった。
右も左も前も後ろも自分と同じような大学生で、その全てが見たことのない他人だ。これから百人の友だちを作ったとしても、それは全体の〇・五%に過ぎない。
春のキャンパスを、二万分の一である彼はのそのそと歩いた。
二年に及ぶ浪人生活を抜けだして、解放感と安堵に包まれていた。だけど自分の存在が数%程度に薄まってしまったように、この場所にいる現実感がなかった。
テニスサークル、音楽サークル、サッカー部、空手部、茶道部、漫研、落研、天文部、航空研究会、文芸部──。
年下かもしれない先輩たちによって、勧誘活動が熱心に行われていた。映画サークルには興味を惹かれたが、んー、そういうのはまだいいかな、と、静かに通り過ぎる。
これから何をすればいいのだろう、という彼のぼんやりした意識にハマったのは、オールラウンドという言葉だった。
オールラウンドサークルというのは、言うなれば飲み会をするサークルなのだろうが、勧誘には一番気合いが入っていた。彼はひとまずその新歓に参加してみた。
パーリラパリラパーリラ! ハイハイ! パーリラパリラパーリラ!
凄まじいコールと手拍子だった。それにあわせて先輩たちがビールを一気飲みする。
パーリラパリラパーリラ! フワフワ!
やがてお調子者の彼もビールを一気飲みしていた。
パーリラパリラパーリラ! 飲みたいとか飲みたくないとかそういうことは、パーリラパリラパーリラ! フーフー! 全然関係なくてともかく飲めばいいみたいだ。
ハイハイ! ハイハイ! パーリラパリラパーリラ! フワフワ! 頭が痛えー。
何がフワフワだ! と思いながら、彼は飲み過ぎて倒れていた。気がつけば、その場で知りあった大迫くんのアパートで寝転がっている。