よく「ネタはどこでインプットしているのか」という質問をされる。あちこちで聞いてきた話がそのままドラマになるなんてことは、ほぼない。ほぼない、というか、そのままじゃドラマにはならない話がほとんどなので、とりあえず、頭の引き出しにしまっておく。そしてなにかの時に、その引き出しの中から、かつて耳にした、かつて感じた色々な話が、形を変えてちょこちょこと小出しで出て来る。
こう書くと、あんまり感じはよくないかもしれないけれど、私は、外で原稿を書くことも多いので、ファミレスやカフェなどで周りの話をよく聞いている。それで「高校生だけど、こんなにしっかりしてるんだ」などと感心したり、話題に出てくるイケメンというのを想像してみたり。
あとは、妊娠してからめっきり回数が少なくなってしまったけれど、お世話になっているネイリストさんや、骨盤矯正サロンの整体師さん、美容師さんや、鍼灸師さんやエステティシャンなどに施術を受けながら、とりとめのない話を聞き、「今時の20代後半はそうなんだ」とか、「ああ私も30代前半の頃はそういう悩みがあったなー」などと、思い出しながらお話しする時間が、結構大事な時間になっている。
先日、美容院で髪の毛をカットしてもらいながら、いつものように美容師さんに、「最近どうなの?」と聞くと、「彼氏と別れました」と返ってきた。これはかなり予想外だった。この29歳の美容師さんは、ことあるごとに「結婚したい」と言っていた。そして、「結婚するなら今の彼氏がいい」と言っていた。
私も一度、美容師さんとその彼氏と、食事をしたことがある。「千穂さん、彼の第一印象、どうですか?」「ちょっと頼りなさそうだね」ついつい思ったままを答えてしまって、「シマッタ!」と思った。「でも、優しそうだし、いい人そうだね」と、慌てて第2印象以下を付け足したけれど、彼女は、フォローしようと付け足したけれど、彼女は、「そうなんですよね……やっぱり頼りない面があるんですよね」とため息をついていた。それでも優しいし、いい人だし、穏やかだし、やっぱり結婚するなら彼だと、彼女は言っていた。
そんな彼女が、淡々と話す。別れの原因は、「専業主婦になって欲しい」と言われたことだった。彼女は、大きなショックを受けた。それはそうだろう、彼女は美容師でありながらも、オーナーなのだ。大変な苦労をして店を立ち上げた彼女の姿を、彼は隣で見てきたはずで、応援してくれていたはずだった。それなのになぜ今更専業主婦なのかというと、それは、彼のご両親の意向らしい。
ご両親に初めて会ったのは半年ほど前だった。ご両親は、彼女をとても気に入ってくれたようだった。それから何度か食事に行ったり、ご自宅に招いて頂いたりと、これまで月に一度のカットの度に、結婚へ着々と歩んでいる様子を聞いて来た。
今回の「専業主婦になって欲しい」発言は、彼、彼の両親、彼の姉、そして彼女の5人で食事をしている最中にあったらしい。彼自身は今までそんなこと口にしたことはなく、いやむしろ、起業を応援してくれていたぐらいなので、やはり彼の家族、家全体の希望なのだろう。
それでもまだ、二人きりの時に言ってくれれば、YESかNOではなく、なぜそんなことを言うのか、また彼女にとっての仕事はどんなものなのか、それをどうしたらご両親にわかってもらえるかを話すことができる。だけど彼は、両親と姉の前という、彼女にとって完全にアウェイの場を選んで発言をした。呆気に取られていた彼女に、彼の母親が追い打ちをかけるように、「大黒柱は一本でいいのよ」と言った。