とある停電の夜、ドラマのような恋がはじまる【第7回】

フリーアナウンサー・羽鳥慎一氏の妻であり、人気脚本家である渡辺千穂さんの初エッセイ連載。世間の愛すべき「夫」の実態を知ることで、夫への見方がプラスに転じる、「なんかいいじゃん、うちの旦那!」と再発見できること必至! 夫への不満でメンヘラになる前に、離婚届にサインする前に、この連載でほっこり温まってください。第7回のテーマは「夫婦の出逢い」について。あなたの出逢いを2時間ドラマにするなら?

どんな夫婦にも出逢いがあり、結婚を決める瞬間があり、そこに至るまでのストーリーがある。仕事柄なのか、ただ単なる野次馬的視点からか、もしかしたら、そういったことが好きだから仕事に繋がっているのか……とにかく私は、いろんな夫婦やカップルの馴れ初めにとっても興味があり、すぐに質問してしまう。

あくまでも私見だけれど、一番多い出逢いは、職場恋愛だと思う。社内の同僚や先輩後輩、取引先、会社は違っても同じプロジェクトチームの一員だったり、学生時代にアルバイト先で出逢ったり。そういった出逢いが恋愛や結婚に繋がりやすいというのはよくわかる。一緒に仕事をすることで相手の仕事に対する姿勢や考えもわかるし、長い時間を共に過ごすことで自然と人となりも見えてくる。この人が夫だったら、妻だったらという想像もしやすい。

二番目に多いのは、同僚や友人からの紹介。元々紹介という目的だったり、たまたま一緒に食事に行く機会があったり、バーベキューや花火大会で一緒になったり、飲み会や合コンで知り合ったり。この場合は、ちょっとしたグループ交際的な期間もあったりして、その間にドキドキやモヤモヤがあったり、ライバルが出現したり、友達をなくしたり、付き合うまでに紆余曲折で時間もかかったりして、恋愛ドラマ的要素がてんこ盛りだったりする。

三番目に多いのは、友達関係や知り合いからの発展。単なる同級生だったあいつが、とか、昔から知ってたあの人と、とか。同窓会で再会して初めて異性として意識したとか、ずっと気が合うとは思っていたんだけど、とか。周りはアッと驚いたりもするけれど、これも相手がどんな人間かが大体わかっているので、意外ではなかったりする。

あとは本当にいろいろで、趣味の場、シェアハウス、ネット、結婚相談所、旅先などでの偶然の出逢い、母親が見つけてきた、店員に一目惚れなどなど……。趣味の場での出逢いは、例えばゴルフ、スキューバーダイビング、サーフィン、スノーボード、テニスなど、男女分け隔てなく人口が多いスポーツに多いようだ。

シェアハウスという名を耳にするようになったのは、ごく最近のような気がするけれど、私の周りには、そこで出逢って結婚したという夫婦が2組いて、両方とも妻が知り合いだ。

一人目の妻が住んでいたシェアハウスは、都心の古い4階建ての雑居ビルの最上階にあった。場所柄もあってか、外国人が多かったらしい。彼女の職業はメイクさんで、浮いたところのない真面目な女子だ。都内の実家住まいでシェアハウスとはイメージがなかなか結びつかないが、実家を建て替える間の繋ぎでそこに住んでいたと聞いて、納得した。

のちに夫となる彼と出逢った冬のある日、都心は豪雨に見舞われていた。スタジオでの仕事が終わり帰ろうとしたものの、あまりにも酷い天気に外に出るのを躊躇していると、優しい先輩が声をかけてくれて、車で送ってくれた。

シェアハウスに帰ると、珍しく誰の姿もなかった。きっと、みんなどこかで足止めを食らっているのだろうと、シャワーを浴びて、部屋に戻ってテレビを観ていると、突然、電気とテレビが消えた。停電だ。廊下もロビーも真っ暗で、懐中電灯もロウソクもない。しばらくすれば復旧するだろうと待っていたが、一向にその様子はない。暖房も切れ、寒くて寒くて堪らない。

雨風の音が響く真っ暗な、築47年の雑居ビル。ひとりでそこにいることに耐えられなくなり、そっと階段を降りた。その雑居ビルは、1階が駐車場で、2階が怪しげなマッサージ店、3階もちょっと怪しげなバーだった。

彼女は、3階に降りてそのバーをドア外から覗いた。灯りがついてた。どうやら停電したのは4階だけらしい。ちょうど出てきたマスターと鉢合わせをする。マスターは、彼女をちらっと一瞥すると、「いらっしゃい」と言った。「客じゃない」と言いそびれ、また暖も取れるならと、初めて中に入った。

怪し気だと思っていたけれど、そうでもない。客のいない店内は予想以上に広々とし、ソファーや飾り棚などにも年季の入った、よく言えば趣のあるバーだった。勧められるがままにカウンターに座り、なんとなくマスターとお喋りをした。

マスターは、この店を始めて28年になるらしい。バツ3で、3人の元妻との間には合計5人の子供がいて、一番下の息子は大学4年生で、ようやく今度の3月で教育費の支払いが終わるらしい。この上にシェアハウスがあることは知らなかったらしくて、驚いていた。特に盛り上がったわけではないが、つらつらと話しているうちに、朝を迎えていた。

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あなたの夫は素晴らしい人だと叫びたくなる

渡辺千穂

中高年女性の間でときに「断捨離対象」のような扱いを受ける「夫」という存在。一生の愛を誓ったはずの夫が、いつ、どこで、どうして変化してしまったのか……。そう思い悩む中高年予備軍(30〜40代)の妻たち、結婚を控えている女性へ向け、人気脚...もっと読む

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