僕のことをコメディアンであると思っている方はほとんどいないと思うが、自分の職業を人に説明するとき、作家であり演出家であり俳優であり…と、肩書きをあげ連ねなければならないわずらわしさから、「喜劇人です」と清しく言い切ってしまいたくなるときがある。
昔は、喜劇人と呼ばれる人が芸能界に少なからずいた。彼らは、テレビに出てコントやひな壇トークなどやらないので今の芸人と呼ばれる人たちとはかなりニュアンスが違う。渥美清、三木のり平、森繁久彌、大村崑、クレージーキャッツの面々などもそうだといえる。古くは榎本健一に古川ロッパ。外国でいえば、チャップリンやウディ・アレンだ。テレビでその芸を披露することもあるが、彼らの活躍場所は、舞台であり映画。ようするに話芸ではなく、ストーリーの中で笑いを専門的に演じる人たちだ。
僕も舞台や映画では、ほぼほぼコメディリリーフを演じてきた。コメディリリーフというのはウィキペディアによれば滑稽な登場人物ということである。最近はシリアスな役もやらせてもらえるようになったが、基本的に、自分は笑わせ屋でいいと思っている。とはいえ、俳優だけやっているわけではないので、喜劇俳優、というのも違うが、作家としても演出家としても、だいたい笑わせることしか考えてないので、大きな意味で考えると「喜劇人」という言葉が、自分の中で今一番しっくり来るのだ。
そう思ったとき、喜劇人の最終目標として自分を主演とした喜劇映画を1本は監督して死にたいという欲が芽生えたのが、4年前。じゃあ、どうしようか、アイデアを練りながら当時住んでいた代官山の町をプラプラ歩いていたら映画監督の庵野秀明さんに久しぶりにバッタリ会った。そして、じゃあ、今度飲みましょうという話になって、その飲みの席で自分のアイデアを話したところ、
「おもしろいじゃないですか!」
と、言われ、その言葉に背中を押された形になって次の日一気に映画の企画書を書き上げたのだ。そしてそれを、先日やっとシナリオの形に仕上げたのである。自分で言うのもなんだが、傑作だと思う。しかし書き上げるのに発想から実に4年。つくづくもたもたしていたなあとも思う。
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。