ライブ的な体験を共有する仕掛け
そのような例を、もうひとつ紹介しましょう。トマトジュースで有名なカゴメ株式会社です。
2012年とかなり以前の話になりますが、クオンという消費者コミュニティ開発を手がけている企業の紹介で、同社を取材したことがあります。当時カゴメは「KAGOMEわくわくネットワーク」というコミュニティをインターネットの中で運営していました。
これがどのようなコミュニティだったのかというと、「凛々子」というトマトの品種を中心にした共同体なのです。凛々子はトマトジュースをつくるためのカゴメオリジナルの品種で、70年の歴史を持っているのだそうです。まっかに完熟するのが特徴で、適度な酸味のさっぱりした味わいなのだとか。
カゴメはこの凛々子の苗のプレゼント活動をしてきました。食育支援というかたちで、たとえば幼稚園や小学校に、時にはプロモーションなどで街頭配布などしてきたのです。そしてインターネットの普及とともに、ウェブサイトでも配るようになりました。これが「KAGOMEわくわくネットワーク」だったのですね。このコミュニティに登録した参加者は自分で凛々子を育て、その生育日記をサイト内で公開して、ソーシャル共有できました。春に苗の植え付けをしてから秋に収穫し、トマト料理をつくるまでの一連の流れをコミュニティの中で楽しむことができるという構成です。
このコミュニティがスタートしたのは2007年。カゴメのトマトジュースのブランド価値を高めようという狙いだったのですが、そもそもトマトジュースや野菜ジュースのような日常的な飲み物だと、高級ブランドと違って消費者とのつながりがそんなに強くなっていません。もちろん「健康」「野菜生活」といったイメージはトマトジュースにはあるのですが、そういうイメージだとあまりにも普通すぎて、訴求力がないと考えられました。