企業と人がつながる包括的なメディア
先に、ビッグデータによる的確な情報提供が実現しつつあるというお話を書きました。この方向性と、すべてがメディア化して文化圏をつくっていくという方向性は、どこかで重なっていくのでしょうか?
この2つの方向性は、個別に最適化していく方向と、多くの人々をまとめていく方向ですから、一見するとまるで逆の方向に進んでいるように見えますね。でも実は、そうではありません。この真逆の2つの方向は、最終的に交叉していくとわたしは考えています。
最近、「オムニチャネル」という用語が注目されています。
「オムニ」とは「すべて」「あらゆる」という意味の英語なので、オムニチャネルとは「すべてのチャンネル」「あらゆるチャンネル」という意味。これまでは小売店でモノを売る、あるいはネットでモノを売るというようにお客さんと企業の接点はチャネルごとに分けて考えられていましたが、これを分け隔てせず、店舗やイベント、ネット、スマホ、ウェアラブルなどありとあらゆる接点でお客さんとつながり、モノを売っていこうという考えかたがオムニチャネルです。
オムニチャネルはお店の側の考えかたですが、お客さんから見れば、お店の側からありとあらゆる体験や場を提供され、自分が求めているときに好きな場所で購入し、受け取ることができるということでもあります。つまりオムニチャネルというのは、広くとらえれば、全方位の空間の中にお店もお客さんも包み込まれていって、その大きな空間の中で自由自在に情報やモノがやりとりされる。そういう世界が実現していくということなのです。
オムニチャネルでいま最も注目されているのは、セブン‐イレブンでしょう。運営会社のセブン&アイ・ホールディングスは何年も前からオムニチャネル構想を温めてきて、2015年11月に本格的にサービスを開始しました。「オムニセブン」というサイトで、セブン‐イレブンやイトーヨーカドー、西武、ロフトなど専門店の商品計180万品目を扱っており、購入した商品を全国のセブン‐イレブンで受けとったり、返品することができます。ネット通販は返品する際、宅配便の集荷をたのんで送りかえさなければならずけっこうめんどうなのですが、セブン‐イレブン店頭で返品できるのならかなり楽ですね。宅配便の伝票も書かずにすみますしね。
面白いのは、お客さんが持っているパソコンやスマホからの注文だけでなく、セブン‐イレブンのお店に置いてあるタブレットの端末からもオムニセブンを利用できるということです。パソコンやスマホに不慣れなお年寄りでも、セブン‐イレブンの店頭でネット通販がつかえるようにしようということなのですね。さらに店頭だけでなく、セブン‐イレブンのスタッフがお年寄りの家を訪問して、タブレットで商品を見せて紹介しながら買い物をしていただくということもはじめるようです。つまりは昔ながらの「ご用聞き」ですね。これまでもセブン‐イレブンでは、「セブンミール」というお弁当の宅配サービスをつかってもらったときに、宅配のついでにお年寄り宅などでご用聞きをしてきたといいます。お弁当のついでに、お総菜などさまざまな副菜をついでに注文する人が多く、この流れをオムニチャネルにもつなげていこうという発想なのですね。
このタブレットの宅配では、セブン‐イレブンの店頭での受け取りだけでなく、まさに「ご用聞き」のようにお店のスタッフが自宅まで届けるということもおこなうようです。
ただ現状ではオムニセブンは、西武やロフトなどで扱っているクオリティの高い商品を買う人はまだ少なく、セブン‐イレブンで売っている馴染みのある商品を買う人が多いようです。ここを突破できるかどうかは、かなり難しいところかもしれません。
企業と消費者がともに創る価値
オムニチャネルというものを単に「流通経路」ととらえてしまうと、理解を誤ります。これは単に、あらゆる手段で商品をお客さんに届ける、あるいはお客さんが受けとるということだけではなく、先に説明したような「メディアによってつくられる文化空間」と重なってくるのだとわたしは考えています。