偏った意見を多数派に見せるネットの仕組み
—— 『先生の白い噓』において、とても重要な役割を担っているのが早藤*だと思うんですが、あまりにも理不尽な存在ですよね。
* 恋人の友人だった主人公・原美鈴や、合コンで知り合った玲菜をレイプし、その後も関係を強要し続けている。
鳥飼茜(以下、鳥飼) 自分で描いていてなんですが、早藤くんのことはすごく分かる……というと語弊があるんですけど、女の人が持っている女の人を嫌う気持ちに似たものがあると思うんですね。
—— それは意外ですね。
鳥飼 男ってこうでしょ?っていうよりは、女性が持つ女性嫌悪を肥大化させて、男性の肉体を付けたらこうなるっていう発想です。だから男性性というものは、あえては出していない。男性の視点で女性を見ると、気に入らない部分があっても「この子可愛いな」で済んでしまうことってあると思うんですけど、早藤くんにはそれがないんです。可愛いですまされていたことを取っ払ってみたら、鬱陶しさだけが際立ってしまうという。それは女性的な視点ですね。
—— 女性の視点に男性の肉体を持たせた故に暴力性も持ってしまうという……。
鳥飼 結局、嫌いだし怖いから制圧したい、コントロールしたいって感情なんです。あるいは、分かるものにしたい。
—— 早藤が処女を狙うのもそういう理由があるんでしょうか。
鳥飼 あぁ、「処女厨」問題ですね(笑)。
—— 『地獄のガールフレンド』に登場する鹿谷も処女厨というキャラクターでしたね。女性に聞くのも変なんですが、処女厨ってなんなんでしょう。
鳥飼 うーん、根本的には自分に自信がないってことだと思うんです。本当は女性を喜ばせたいけど、前の男より喜ばせられないかもしれない、だから処女がいい。処女厨の8割くらいはそれだと私は勝手に思ってるんですけど、早藤くんは視点が女性なのでまたちょっと違うかもしれません。
—— 同じ処女厨でも、鹿谷と早藤は意味が違うと。
鳥飼 これってちょっと難しい問題で、二十代前半くらいの知り合いの女の子から「自分は処女じゃないから彼氏に申し訳ない」って言われたことがあって。「彼氏が処女好きなの?」って聞いたら、「そうじゃないけど男の人って処女厨多いじゃないですか」って。
—— そんなことないと思うんですけど……。
鳥飼 そう、そんなのきっと全男のほんの一部ですよね。でもその子は2ちゃんねるとかでスポイルされちゃってるところがあって、ああいうところで処女厨の人たちが集まって書き込みしているのを見て、真に受けちゃってる。
—— 恐ろしい話ですね。
鳥飼 私と大きく違ったのは、その子が小中学生くらいのときには、すでに2ちゃんねるとかニコニコ動画みたいなものが存在してたってことなんです。もしかしたら、彼女が実際に体験しているその場の会話でも、その後ろに「キター!」とか「乙」とかそういうのが見えているじゃないかなと思って。目の前の男の子が「処女かどうかなんて関係ないよ」って言っても、その後ろに「www」ってニコニコのコメントが流れているみたいな。
—— デジタルネイティブな人ほどネット用語を自然に使ったりもしますね。
鳥飼 この話を聞けたのは私にとって大きな経験で、例えば「日本が悪くなったのは女が社会に出たからだ。また家庭に収まればうまくいく」なんてことをSNSで言ったら、まず炎上しますよね。でも燃えることによって、「みんなが自由に生きるべき」って意見より目立っちゃうんです。実際そんなこと言う人は、ごく少数派だと思うんですけど、目立つだけで大勢いるように感じてしまう。品のない発想だったり、人を傷つけるようなものだったり、みんなが自由に生きることを阻止する内容ほど、すごくセンセーショナルに広がるし強烈に印象に残りますよね。
—— 強烈に印象に残る分、みんながそう思ってると勘違いしそうです。
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