簡単な計算式である。
今まではMCとアシスタントとパネラーの合計6人という枠を、7人の福岡芸人が争っていた。
そしてター坊がいなくなった今、6人という枠に対して福岡芸人は6人しかいない。
つまり、みんなの興味は、僕の行方である。
大吉も、どこかに選ばれるんやないと?
いよいよ、お前も入るんやないと?
だって、人が足らんっちゃけん。
小声でみんなから言われる度に、僕の心は葛藤した。
嬉しくないと言ったら嘘になる。
でも、そこまで嬉しくもないのだ。
本当に生意気だけど、お門違いも甚だしいけど、僕は何より、あの稽古風景が本当に嫌だった。
あの空間では、全ての自我を削ぎ落とされて、全ての発想を否定されて、全ての意見を鼻で笑われて、それでも全ての意向は受け入れなければならないのだ。
吉田さんやスタッフさんの顔色を伺いながら、決められた台詞を重ねていくディベートは、もちろん、全てが完成していたら気にならないのだろうが、最初から全ての工程を見せられる僕からすれば、それはあまりにも異質な光景であり、どう転んでも楽しいとは思えなかった。
これまで稽古を見学してきたからこそ、最初からずっと部外者だったからこそ、この空間の息苦しさを誰よりも他人事として感じていたからこそ。
出来ることなら、関わりたくない。
これが僕の本音だった。
ただ、一点だけ。
この番組に出ていないということを、両親や姉、友人には知られたくなかった。
福岡芸人の全員が出ているテレビに、僕だけが出ていないなんてことが知られたら、僕が吉本でこんな扱いを受けているなんて知られたら、特に両親からは何を言われるかわからない。
きっと芸人を辞めさせようとするだろうし、もし僕が親でも、そんな結果が出ているのなら、もう芸人は諦めるよう説得するだろう。
そこだけは、気がかりだった。
出たくないけど、出なきゃいけない。
出なきゃいけないけど、出たくない。
だけど、こうなったら仕方ないだろう。
芸人を続けるためにも、出た方がいいんだし。
メインMCの失踪という、誰の目にも見える非常事態。
この期に及んで僕に声がかからないとは、さすがに思えない。
内心、遅ればせながらの参加を覚悟したものの、たとえばアシスタント役を任命されても、一発ギャグなんてからっきしだから、その先は地獄である。かといって、どちらかの論客を任せられるハズはないのだから、やっぱりアシスタントが無難だろう。
ター坊のことを誰も口に出せないまま、粛々と新体制が発表された。
「今日から華丸くんをMCにして、あらためて稽古します」
稽古場に、吉田さんの標準語プラス丁寧語が響き渡る。反射的に全員の背筋も伸びる。
「で、プリーツスカート派をコンバットとひらい、フレアスカート派を文太とケン坊で、やってみよか」
残る席はあとひとつ。名前が呼ばれていないのも僕ひとり。
「そして今日から大吉くんには……」
予想通りの展開に、みんなの視線が僕に集まる。やっぱりアシスタントかあ、ギャグなんてないぞ。
「ちょっと前から思っとったんやけど、フロアーをやってもらいます」