チビの書生
7年経ったジョイント・インターナショナルは、店内の品揃えがだいぶ変わっていた。
けれど店の奥の、常連客が集まるパソコンルームは、変わらず残っていた。
古畑が、俺を見て懐かしそうに笑った。
「優作さぁん! 久しぶりですね!」
「ご無沙汰してます、古畑さん」
「西島さんに聞きましたよ。シアトルにいたんですって?」
「ああ。まあ」
「しばらく日本にはいるんですか?」
「そうですね。ちょっとゆっくりしようかなと」
「また会社にも来てくださいよ。歓迎しますよ」
古畑は相変わらずガリガリに痩せていた。しかしジャケット姿が、前より似合っている。雰囲気は少し大人びた。アーキテクトの副社長として、着実に積んできた経験がうかがえる。
ちょっと驚いたのは、成田だった。
「私たちとしばしば会っていると以前のように、西島さんのお守りを頼むことになりかねません。どうかお気をつけてください」
ロボットみたいな口の利き方は変わっていない。しかし成田は赤いジャケットに赤いスカート、赤いヒール。そして金色のスカーフに、髪を金髪に染めていた。
何があったのか? 聞くまでもなさそうだ。
成田の手元のペンケース、ポーチにハンカチ、下敷きにメモ帳と……身の周りのグッズは『機動戦士ガンダム』のシャア・アズナブル一色に染められていた。
わかりやすい人だなぁ……と思いながら聞いた。
「成田さん。赤い彗星推しなんですね」
「お陰さまで。優作さんには感謝します。あなたが数年前、『ガンダム』の存在を教えてくれなかったら、私の人生はよりつまらないものでした。シャアは私の師であり、星であり、永遠のアイドルです」
「そ、それは良かった」
古畑が口を挟んできた。
「普通はアムロじゃないの? 好きになるのって」
「戦場で頬を打たれ、『親にもぶたれたことない』なんて腑抜けたことを言う男は、好きではありません」
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