完璧なものをあえて崩す

今回は、いよいよ伊東潤さんと藤野英人さんの対談の最終回です。 伊東潤さんの体験から「自分の適性に気付くことが、いかに大切か」というお話。 そして藤野英人さんが実践する「完璧なものをあえて崩す」というお話をしていただきました。 まさに目から鱗の話題ばかりです。

第1回 経済と歴史小説は密な関係?
第2回 金持ちの目標は金儲けに非ず
第3回 歴史から今を学ぶ?

大事なのは自分の適正に気付くこと?

伊東 一昔前に「自分探し」という言葉が流行りましたが、すぐに否定に走る識者がいて、今はすたれています。その挙句が若者の保守化です、「自分探し」が格好悪いことになり、それなら「分かんないから、安定した道を行けばいいや」となったのではないかと思います。

藤野 なるほど。

伊東 僕は「自分探し」大賛成です。得意や強みを見つけるのと同様、自分の適性を見つけることも大切です。 僕が日本IBMに勤務していた頃、様々な立場の人から「君は出世する。きっと人の上に立つようになる」って言われていたのですが、自分では違和感を覚えていました。それで、30歳を過ぎたころにふと気付いたのです。自分は人の上に立つ人間ではなくて、自己完結の仕事をすべき人間だと。

藤野 自己完結の仕事ですか。

伊東 考えてみれば、人と一緒に仕事をするのが好きではなく、一人で何かをやればいい仕事ができても、誰かの意見が入ると、いい結果が出ないことに気づきました。これは自分が正しくて他人が正しくないというのではなく、誰かの意見を入れねばならないことになると、突然、やる気が失せてしまう自分にも責任があったのです。それゆえ自己完結の世界に近づくために、脱サラしてコンサルタントになったのですが、それでも提案に対して、クライアントが首を縦に振らなければ進められないということで、これも完全な自己完結ではありませんでした。それゆえ、さらなる自己完結を目指して作家になった次第です。作家という職業は、ほぼ自己完結なので極めて快適です。その意味では、自分に一番合った席を、ようやく見つけられたと思っています。

藤野 自分の適性がある日、突然いきなりポンと来る事はあまりないですよね。なにか適切な回り道というのが必要ですね。どんな職業であっても、結局は自分らしくしか出来ないですから、そういう意味ではどんなことをやっても結局、自分というものが見えてくると思います。だから、何でもいいから最初は決め打ちでもいいから縁のあるものをやってみる。やっていくうちに修正をかけていくというのが現実的だと思います。

伊東 適正なんて、なかなか分からないですからね。30歳を過ぎるまで、僕も分からなかったですから。だから「自分探し」は大賛成です。ただし、「何をやりたい」と「何に向いている」かは別です。僕も起業家になりたいと思ってきましたが、今では向いていないと思っているので、やらなくてよかったと、つくづく思っています。つまり、「己を知る」ことが何よりも大切なのです。歴史上の人物で言えば、己を知っていたからこそ、徳川家康は天下が取れたのだと思います。取り立てて才能がなく、凡庸な己を自覚することで、家康は慎重に判断してから動き、最後には天下人となりました。信長や信玄、そして秀吉など、彼の周囲には敵味方を問わず、きらびやかな才能を持っている人材が豊富でしたから、家康としては、とても敵わないと思ったのでしょうね。でも、家康は己を知っていたのから、自分のやり方でしか彼らには勝てないと自覚していた。そこに彼の強みがあるのですね。そして、自分ひとりの才能だけでは敵わないので、家臣の結束を強めて自分を補完させることによって、自分を大きくするということもできたのです。

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江戸を造った男』特別対談—伊東潤×藤野英人 

伊東潤 /藤野英人

【『江戸を造った男』重版記念対談】 ファンドマネージャー・藤野英人さんと小説家・伊東潤さんの対談。 藤野さんが河村瑞賢を好きな歴史上の人物に挙げられていて、伊東潤さんが新作『江戸を造った男』で主人公に瑞賢を描いたことがきっか...もっと読む

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コメント

nyanmage_x 「お金だけ貯めて、投資しない、やりたいこともないというのでは経済が回らないですね。」 2年以上前 replyretweetfavorite

jun_ito_info 藤野さんとの対談の第四回がアップされました。こうした対談の心構えとして、相手の著作はできるだけ目を通し、自分はどう思うかまでを考えておくことが必要です。また政治・経済・社会・ビジネスに関して、精通しておく必要があります。https://t.co/SRvI1CxBHw 2年以上前 replyretweetfavorite

jun_ito_info #江戸を造った男 特別対談第4回が公開です。 https://t.co/SRvI1CxBHw 投資家・藤野英人さんと小説家・伊東潤が江戸時代の商人・河村瑞賢を語ります。 プロジェクトリーダーとして国のインフラ事業を行い日本の基盤を作った瑞賢から仕事術・日本経済の未来を学びます。 2年以上前 replyretweetfavorite