ダンスのレッスンは精神的な特訓だった
—— 米津玄師さんは2016年もさまざまな新しい試みを行ってきましたよね。
そんな中で、1年のハイライトはなんだったと思いますか?
米津 ハイライトは、やっぱりダンスですね。
—— 「LOSER」のMVで披露した独特のダンスは、もはや肉体表現と言っていいものだと思います。その初挑戦が最も大きかった。
米津 そうですね。今までやってきたことと全然違った。あれが一番大きかった出来事だと思います。
—— 今年は年初と年末に2度の全国ツアーがありました。先日のツアー「はうる」のライブを拝見したんですが、パフォーマンスにもその経験が生きていると思いました。踊りながら歌う身のこなしが、目を奪われるようなものになっていた。ステージに立つ時の感触も変わった実感はありますか?
米津玄師 2016 TOUR / 音楽隊(写真:太田好治)
米津玄師 2016 TOUR / はうる(写真:中野敬久)
米津 そうですね。今年の夏にダンスのレッスンをしたんですけど、それに伴って筋トレ的なこともしたんですよ。そうしたら身体の形が変わってきた。筋肉も付いて、それに伴って精神的なところも変わってきたんです。単純に、すごくごはんがおいしくなった。
—— ははは、なるほど。
米津 運動した後に食う白米っておいしいんだなって、25にして初めて気付いた。そういうこともあって、すがすがしい気持ちになることが増えましたね。
—— ダンスの振り付けとレッスンは、コンテンポラリーダンスの第一人者である辻本知彦さんが担当したんですよね。辻本さんとは、どういう出会いだったんでしょうか。
米津 最初はMVの監督と話していて「ダンスを踊りましょう」という話になったんです。だとしたら当然それをレクチャーしてくれる人がいた方がいい。なので、こちらからコンタクトをとりました。
—— 米津さん自身、以前に「高校生の頃からダンスをやりたいと思ったことはあった」と言ってましたよね。でも本格的にやるのは初めてだし、そもそも運動もしてなかった。
米津 はい。テニス部にいた中学生のころが最後です。
—— おそらくボカロを使って音楽を作ったり、イラストを描いてきたような人間は、ほとんどが運動をしてこなかったタイプだと思います。
米津 そうですよね。
—— でも、結果的に、辻本さんは「万人に一人の芸術性を持つ」と感嘆されていました。その道のプロである辻本さんがそういうコメントをするのも滅多にないことだと思います。
米津 あの人はすごく辛辣なんですよ。素直な人だし、愛想を言わないし。でも、そういう人だからこそ、これだけ買ってもらえてるのは嘘じゃないだろうと思います。ダンスに関して自分に何があるのか、まだ自分では判断しきれてないですけど。
—— 米津さんにとっても間違いなく新しい扉が開いたわけですよね。始めてからどれくらいの期間であのレベルまで行ったんでしょうか。
米津 2週間ですね。
—— 2週間!
米津 以前にインタビューで「1ヵ月くらい」と言ってたら、辻本さんに「1ヶ月もやってない、ちゃんと言え」って怒られたんですよ。だから正確に言うと2週間です。
—— どういうレッスンがあったんでしょうか。
米津 最初はもっとカッチリした振り付けがあったんです。キメもあったし、いわゆるダンス然としていた。でも、あまりに時間がなかったので、その方向性はやめて、俺の資質をできるかぎり伸ばしていくという方向性にシフトした。それで結果としてああいう感じになったんです。思い返すと、肉体的なものより、精神的なものが大きかったかもしれません。
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。