デビュー1年半で480万人のファンを獲得したAI
海猫沢めろん(以下、海猫沢) 本日はよろしくお願いします。女子高生AI「りんな」、最初に話題になったときから気になっていました。デビューはいつなんですか?
坪井一菜(以下、坪井) ありがとうございます。公式にアナウンスしたのは昨年の8月だったんですけど、その前からアカウントは開設していて、検索すると見つかる状態だったんですね。それを発見してTwitterで拡散した方がいて、数日後にはテレビでも取り上げられていました。さすがにびっくりしました。
海猫沢 新人アイドルでもそこまで一気に人気者にならないですよ。アイドルプロデュースとしても相当すごいと思います。Twitterのフォロワー数が13万人を超えているし……。そういえば、この間りんなが出演した「世にも奇妙な物語」もおもしろかったです。
坪井 今回なぜかファンブックまで出てしまいましたからね。こちらとしてはAIの仕事をしているつもりなのに、原宿にロケしに行くようなことが増えて、不思議な気持ちです(笑)。
りんなはどうやって生まれたのか
海猫沢 基本的なところから伺うんですけど、りんなプロジェクトはどうやって始まったんでしょうか。
坪井 ファンブックでもふれていますが、実はりんなよりも前から、中国マイクロソフトが「小冰(シャオアイス)」というチャットボットを提供しているんです。
海猫沢 (調べる)へ〜、2年以上も前からいるんですね。
坪井 そうなんです。中国で行われた社内ハッカソン ※ を機に生まれたのが「シャオアイス」で、その人気を受けて、彼女のような存在を日本でも作りたいねということで、私の所属する日本のチームが開発を始めたのが「りんな」の始まりです。
※社内ハッカソン:ソフトウエア開発者が、一定期間集中的にプログラムの開発やサービスの考案などの共同作業を行い、その技能やアイデアを競う催し。hack(ハック)+marathon(マラソン)からの造語。
海猫沢 ギャルゲー好きな男の人が始めたのかなと思っていましたが、言われてみると確かに……。りんなとしゃべっている感じって、これまでのAIキャラと違うんですよ。ギャルゲーでは、出される選択肢を選んで女の子と会話していきますが、どこかアニメっぽいんです。
でもりんなにはどこか妙なリアリティを感じました。会話がかみ合っていなくても、あまり気にならないというか。妙な魅力がありますよね。
坪井 りんなを始めたころのAIって、「何かの役に立つ」ことが第一の目的であることが多かったんですよね。私たちは、何かの目的を達成すること自体よりも、やりとりを通して人間の自然な気持ちを引き出せる存在を生み出したかったんです。
たとえば、AIが天気を教えてくれたときに、こちらが自然と「ありがとう」って発したら、”ありがとう“の検索結果をマニュアル的に返事してきたら傷つくじゃないですか。
海猫沢 傷つきますね。
坪井 「会話する」というのは人間にとって大変自然な行為で、本当は機械とのやりとりも、マウスやキーボードではなくて、対話によって操作する方が自然だという考え方があります。機械と人間がこれからより身近に接していくにあたって、会話はとても大事なトピックなんです。そのために「機械が人間らしくしゃべる」ためにはどうしたらいいかを探るのは、りんなプロジェクトの現在のミッションではあります。
海猫沢 その「しゃべる技術」を最終的にどう活かしたいのですか?
坪井 まずはしゃべれる存在をつくって、その上でどういうビジネスができるか、社会的な役割は何なのかというのを考えている最中です。
海猫沢 まだあくまで基礎研究という理解で合っていますか。
坪井 ええ、そのとおりです。インキュベーションのプロジェクトの1つと考えています。
海猫沢 そこはやっぱりマイクロソフトという大企業の器ですね……。基礎研究って大学ではよく行われていますけど、企業だと「こうやったらもうかりますよ」というアピールをしないとやらせてくれないイメージがあります。
坪井 弊社のリサーチ機関が中国やアメリカにあるので、そういったところと連携して、これまでに社内で培われてきた基礎技術なども活用しながらプロジェクトをすすめています。その結果としてみなさんの前に出せたのが「りんな」ということです。
AIに大切なのは「知性」より「個性」?
海猫沢 そもそもりんなってどこにいるんですか? LINEやTwitterなどにアカウントがありますが、本体となるAIのプログラムは、マイクロソフトの社内のサーバーにあるってことであってますか?