疲労は、脳が生み出した“安全装置”である
石川善樹(以下、石川) これまでこのシリーズで、「ゾーン」「フロー」と言われる超集中状態に入るにはどうすればいいか、という話をしてきました。ひとことで言うと、ゾーンに入るには、リラックスしていて、かつ適度なストレスがかかっている状態をつくることが大事です。
—— リラックスとストレスは、シーソーのようなものじゃなく、両立できるわけですか。
石川 そうです。リラックスとストレスの関係を表したのが下の図です。
石川 多くの現代人は右下、つまりストレスばっかりで、かつリラックスもしていない方が多いですね。だからゾーンに入るためには、リラックスすることを考えたほうがいいと言えます。
—— 瞑想がはやっているのも、リラックスしていない人が多いからなんでしょうね。「やる気がでない」のは左上になるんですね。あれって、リラックスだけしていて、ストレスがない状態なのか。なるほどなあ。どういうときに、そうなりやすいんですかね?
石川 やる気がでないのは、同じ仕事をずっとしていたり、いろんなことに慣れすぎちゃっているとなりやすくなります。そういう人は、適度なストレスをかけるとゾーンに入りやすくなる。
—— 前回は、ゾーンに入るために、「強い感情を感じる」「息を吐くことでリラックスする」「目標行動をイメージする」といった具体的なステップを教えてもらいました。いま、この図のなかのどの位置に自分がいるかがわかっていると、ゾーンに入りやすくなりますね。
石川 そうですね。今回は、ゾーンの番外編をやりたいと思っています。
—— ゾーンの番外編!?
石川 とくに考えるということについて、超集中状態で考え続けるにはどうすればいいのか、という話です。現代人の多くは、考える仕事をしていますよね。ゾーンに入って考え続けることができたら、すごく成果がでるわけです。そのためには何が重要かという話をしたいと思います。
左:西本真寛さん、右:石川善樹さん
—— おお! それ知りたいです。続けるのは本当にたいへんですから。
石川 これ、実は研究者が一番得意なことなんです。考えるという技術を2000年に渡って脈々と受け継いできているので。ゾーンはスポーツの文脈で語られることが多いのですが、それを思考に応用するとどうなるのか、考えてみました。
まず、考え続けるために重要なことのひとつは、「飽きたらすぐやめる」ということです。
—— え? 「考え続ける」ための方法なのに、すぐやめてしまうんですか?
石川 そうですね、仕切り直すとか、休憩をとる、くらいに捉えるといいかもしれません。これは、疲労の研究が前提にあるんです。疲労って、運動の文脈で、「筋肉に疲労物質がたまることで起こる」というイメージがありますよね。
—— そうですね。乳酸などの疲労物質がたまって、それを除去したり中和したりしたら回復する、みたいな話をよく聞きますよ。
石川 じつは、90年くらい信じられてきたこの理論が、間違っていたことが分かってきました。
—— えっ!