音楽祭には、ソプラノ・アルト・テノール・バスという各音域から構成される混声四部合唱と呼ばれる形式で出場する。アタシとめぐはソプラノで、蓮はテノールだ。
今までは先輩たちと一緒に歌っていたから、自分の声も意外といけるじゃん、なんて勘違いしていた。
だけど、新入生だけで歌ってみたら、それは聴いていて頼りないくらいに未熟な合唱だった。
音楽室のピアノを囲むようにならぶ部員たち。中央の机に置かれたラジカセからは、録音されたアタシたちだけの合唱が流れている。
ぴ、と芽依子先生がラジカセの再生を止めると、何とも言えない沈黙がただよった。
自分の歌声ってこんなだったっけ。
伸びやかで瑞々しい先輩たちの声と違って、新入生たちの声は頼りなく貧弱に感じられた。どうしよう、これじゃあ合唱っていうよりただのカラオケだ。ほかのパートと溶け合ってないし、声が全然響いてこない。
こんな歌、人前で歌うなんてできっこない。
「まず、落ち込まないこと」
と、前置きしてハル先輩が話しはじめる。
「毎年のことだし、未来の世代はもっとひどかったし」
「そ、そうでしたっけ?」
未来先輩がとぼけるように言った。
「——それを踏まえた上で、改善点を探っていこう」
はい、と新入生たちが元気に返事をする。
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