「うあ……感覚が、なくなってる……」
部室を出たとたん、アタシは人目も気にせず廊下に座り込んでしまった。
「あたしも、もうダメ」
めぐも、その場でひざをついてしまった。体をよじってふくらはぎをさすっている。
アタシとめぐは放課後、お目当ての茶道部を見学してみたのだけれど、正座のしすぎで足の感覚がなくなり、早々に部室を抜け出したのだった。
「つか、アタシそんなに和菓子好きじゃなかったんだよね……」
「そこは最初に気づこうね」
通りすぎる生徒たちは何事かという目でこっちを見ていくけど、とても立てる状態じゃなかった。
「鈴、その座り方はやばいよ。パンツ見えそうだよ」
「いや、わかってるけどちょっと待って」
「どうしようかな」めぐはちいさくため息をついた。
「あとは合唱部か手芸部を見てみたいんだけど、鈴はどうする?」
「合唱部?」
「うん。ずっとピアノ習ってたし、いいかなって」
「へえ……」
そういえば、蓮はどうしているんだろう。迷惑かけてないかな、って、迷惑かけたのはアタシのほうだ。
掃除だってサボっちゃったし、謝りに行ったほうがいいのかな。アタシのせいで蓮が困っていたらどうしよう。
いいや。こんなに悩むなんてアタシらしくない。
「めぐ」
アタシは感覚のない足で立ち上がった。じーん、とつま先から痺れが走った。
「じゃあ、これから合唱部に行ってみない?」
めぐはアタシを見上げて、いいよ、と言った。
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