ネット時代に合った著作権の考え方「クリエイティブ・コモンズ」とは
——水野さんは「クリエイティブ・コモンズ・ジャパン」(活動母体:NPO法人コモンスフィア)の理事を務めているんですよね。クリエイティブ・コモンズとはどういうものなのでしょうか。
インターネットが普及した社会に合わせて考えられた、新しい著作権ルールです。これまでは、著作権でガチガチに権利が守られているか、権利が放棄されているか、という100か0かの二択だったんです。でも、「クリエイティブ・コモンズ・ライセンス」を使えば、著作権を保持しつつ、60とか50とか40とかのグラデーションで中間の限定された権利を主張することができ、作り手の権利を守りつつ、作品を広く共有することができます。作品を公開する作者や権利者が、わかりやすいマークで「この条件を守れば、私の作品を自由に使って構いません」と意思表示をすることができます。
——団体としては実際にどういう活動をされているんですか?
クリエイティブ・コモンズ・ライセンスは、社会の変化に合わせてどんどん進化するように設計されています。だから、新しいバージョンが出るたびに、日本語に翻訳する作業が発生する。現在はバージョン4.0です。それを、本国と調整しながらやるというのは、この団体の大事な仕事です。あとは、普及のためにイベントやシンポジウムを開催することもあります。先日もリミックス・イベントをやって、DOMMUNEで配信したりしました。また、ライセンスを使いたいという人からの問い合わせの量もすごいんですよ。全国から「このライセンスを使いたいけれど、どうやって使えばいいのかわからない」という問い合わせがどっさりくる。それの対応などもします。ボランティアで活動しているので、なかなか大変です(笑)。
——クリエイティブ・コモンズという考え方を提唱したのは、水野さんが法律の世界を志すきっかけになった『CODE——インターネットの合法・違法・プライバシー』を書いたローレンス・レッシグですよね。
そう、『CODE』ではまだ、クリエイティブ・コモンズのことは書かれていないけれど、その後2004年に彼が発起人の一人となって、「クリエイティブ・コモンズ」というプロジェクトおよび非営利団体が立ち上げられたんです。クリエイティブ・コモンズという概念について知った時は、本当にカッコいいと思いました。国が決めた著作権という法律に従うのではなく、時代に合わせたかたちで、クリエイターと、それを使いたい利用者・ユーザーが合意の上で、それぞれの条件を設定して作品をシェアしていく。著作権が求める硬直的な枠組みではなくて、自分たちのルールは自分たちで作っていくんだという発想が、すごくパンクだなと。その思想的な部分に、一番ぐっときました。
——著作権があるものに対して、みんながいろいろなかたちで創作活動を楽しむというと、「初音ミク」が思い浮かびました。初音ミクのキャラクターもクリエイティブ・コモンズ・ライセンスで運用されているんですか?
2013年からは、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスにも対応しました。もともとは初音ミクのソフトを開発・販売しているクリプトン・フューチャー・メディアが、「ピアプロ・キャラクター・ライセンス」という独自のライセンスをつくって、それで運用していたんです。でも、初音ミクが世界的に人気になってきたので、世界標準のライセンスを採用したいと、クリエイティブ・コモンズ・ジャパンに相談がありました。もともとのピアプロのライセンスも、クリエイティブ・コモンズを参考にしたとおっしゃっていましたよ。ニコニコ動画における著作物の利用ルールである「ニコニ・コモンズ」も、クリエイティブ・コモンズを参照しているそうです。くまモンの利用規定などもそうですよね。
——そうやって聞くと、クリエイティブ・コモンズはかなり身近なものなんですね。
必ずしもクリエイティブ・コモンズ・ライセンスに準拠していなくても、クリエイティブ・コモンズのミーム(思想的な遺伝子、文化的な遺伝子)は遍在しているんです。だからもう、クリエイティブ・コモンズの思想がインパクトを持っていたフェーズは終わって、ここからは拡大期だと思っています。今は、自治体や教育機関での採用が増えてきているんですよ。特に政府情報や教育素材、研究論文をオープンにする取り組みが、盛んにおこなわれていますね。例えば教育素材でいえば、MITやハーバードがオープンコースウェアを推し進めていて、日本でも少しずつそうした動きが始まっています。