理不尽さを体験して、噛み砕いていくうちに、文学のよさがだんだんわかってくる
—— 伝記モノから岡田あーみん、そしてドストエフスキーから遠藤周作まで、幅広く本を読まれてきました。今後、文豪以外を題材に漫画を描くとしたら、どのようなものを題材にしたいですか?
千船翔子(以下、千船) 読者さんが求めるものを書きたいと思うので、今、反応を見ている感じですと、やっぱりギャグで、歴史モノ。興味ない人が読んでもおもしろいと言ってもらえるものが描きたい。ジャンルだったら、美術史とか宗教史とか。身近な題材だけど、あんまり積極的に知ろうとはしないじゃないですか。でも、知識があったら絶対おもしろいはずなんです。海外旅行とかも楽しくなるし。そういった、生活を楽しめる教養が得られるものを描きたいです。
—— 最近は、仏教の勉強をされているとお聞きしました。
千船 仏教は、まだ、基本的な知識が身に付いていないので、まずは、仏教のイロハ、みたいな本を読んでますね。
—— 基本的知識が身に付いて、はじめておもしろくなる。
千船 私は完全にそうですね。『文豪失格』もまさにそれで。最初は引き出しの少ない状態だったので、うまく描き進められなかったですね。筆が進まなくて。でも引き出しが多くなってきてから、これはいけるかもしれないって思って、今はすごく楽しく描いてます。
『文豪失格』(実業之日本社)より。以下同様
—— 第4話で太宰治が登場してきてから、「パワーが入った!」と反響があったとか。太宰治は、描いていて楽しいキャラクターなのでしょうか?
千船 太宰はこの仕事を始める前から一番知っていた文豪です。その知識が少なからずあったから、生き生きと描けたかな。それまでは、原作に書いてあることに頼って描いていたんです。でも、それって自分の知識ではないですよね。自分の中で噛み砕いて描いているわけじゃないから、『文豪失格』の最初のほうは、他の人から、「パワーがない、あなたのカラーが出ていない」って言われて。でも太宰が出てきてからは、私の中に引き出しが多くあったから、私らしく描けた。自分の中に知識を溜め込んで消化しないと、キャラクターは動かせないですね。今はなんとか、平均的に知識が身に付いてきたので、太宰以外もつっこんで描けるようになった……って感じですね。
—— そうやって知識を溜めていく中で、新たにおもしろさに気づいた文豪はいますか?
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