星の光の向こう側(前篇)

その日、若きSF作家はVR空間で何を見たのか――? 『ニルヤの島』『クロニスタ』の柴田勝家氏が、9月下旬、世界最新のVRゲーム『アイドルマスター シンデレラガールズ ビューイングレボリューション』の体験取材を行いました。10月25日(火)発売のSFマガジン12月号、VR/AR特集の記事を特別公開します。


『アイドルマスター シンデレラガールズ ビューイングレボリューション』2,296円(税抜)Playstation VR専用
©BANDAI NAMCO Entertainment Inc.

■魂の声

バンダイナムコエンターテインメントの本社ビルに絶叫が響いた。

「Fu! Fuuuuu!!」

 フロア全体に轟く男の魂の声であった。男の体は、小さな部屋に据え置かれた椅子の上にあるが、意識は既にここにはない。

「イェエエエッ!」

 男の肩が叩かれた。誰が叩いたのであろう。後ろにいる客だろうか。自分は今、ステージを見ている。大勢の観客の中、コンサートライトの光の中で、アイドル達を応援している。ここだけが現実だ。

「柴田さん、柴田さん」

 そのとき頭につけていたヘッドフォンが外され、もう1つの重ね合わさった世界に聴覚だけが接続された。

「すいません、コールがかなり響いてるので、少しだけ静かに……」

「あっ、すいません」

 現実であった。

 自分が今見ている風景こそが、VRの世界だと、この時になって気づけた。担当の人がヘッドフォンとPS VRを取り外し、視界が現実に戻る。目の前のテレビではアイドルが表示され、手にしていたコンサートライトもPlayStation®Moveとなり、自分が座っていたライブ会場の椅子も、もはや普通のものとなった。

(あ、これ『トータル・リコール』で見たやつだ!)

 ワシはここに来てようやく、自分がVRゲームを体験するために、バンダイナムコエンターテインメントに来ているのだと思い出したのだった。


柴田勝家(しばた・かついえ)1987年生れ。SF作家。

SF作家歴よりもP歴の方がちょっと長いワシ

 言わずもがな『アイドルマスター』(以下アイマス)といえば、プレイヤーがプロデューサー(以下P)となり、個性溢れるアイドル達との交流を深め、多彩な楽曲に触れるゲームである。ゲーム以外にもCD、ラジオ、ライブ、アニメなど複数のメディアで展開し、それぞれ魅力的な音楽で楽しませてくれる。その派生作品である『アイドルマスター シンデレラガールズ』もまた、ソーシャルゲームとして出発しながら、CD化、ライブ、さらにアニメ化も果たし、いわゆるアイマス一門の一角を担っている。本作は本家アイマスよりも数多く多彩な(現在は200人近くの)アイドルがいることが特徴であり、それぞれのアイドルの魅力を各地で担当P達が熱弁している。ちなみにワシは成宮由愛ちゃんの担当Pです。

 それはそれとして、今回、そのアイドルのライブをVR上で楽しむという『アイドルマスター シンデレラガールズ ビューイングレボリューション』なるゲームが発売された。そしてワシもまた、VR特集に合わせ、実際にこれを体験し、記事にする機会を頂いた。

 このゲームは『シンデレラガールズ』に登場するアイドルの3Dモデルによるライブを、プレイヤーはVRを用い、観客となって楽しむというものらしい。それが実際にどのようなもので、どのようなことになったのか。SF作家歴よりもP歴の方がちょっと長いワシが、以下に体験した全てを書き記そうと思う。



■光が見えた

 ワシは舞浜アンフィシアターの座席に腰掛けている。椅子の布目、その質感、灰色の床、天井に輝く照明。何もかもが本物に見える。

 ここは記念すべきシンデレラガールズの1stライブの会場。ワシはチケットを手に入れられず、遠く離れたライブビューイング会場で見ていた。あの忘れもしない4月の初め、第2回ハヤカワSFコンテストの締切の直後だった。徹夜で仕上げて応募した『ニルヤの島』がどうなるのか、その時は全く予想だにせず、ただアイドル達を応援していた。多田李衣菜役の青木瑠璃子の歌う「Twilight Sky」で、青とオレンジに分かれて染まった会場に涙を流していた。

「それじゃあ、ライブを始めますね」

 担当の人の声が遠く聞こえる。目の前に浮かんだウィンドウ上で操作が加えられた。この情景だけが、ここがVR空間であることを示している。

 暗転し、曲が流れ始める。秒針の音。「お願い! シンデレラ」。この曲だ、この曲があったからこそ、彼女達はここまで来られた。既にワシは泣いていた。9人ものアイドル達が、ステージに現れ、それぞれ観客に向かって笑顔を差し向ける。


既にワシは泣いていた

 光が見えた。無数の観客達が振るコンサートライトの光。自分の手元を見れば、同じように3本のコンサートライトが握られている。ピンク、青、黄色の3色。この色だ、あの時と同じ色。

「コンサートライトの色は設定で変えられて、何本持つかとかも設定できますよ」

 事前に説明を受けていたが、実際に手にしてみると不思議な感覚があった。モーションコントローラーを握った手の感触とは別に、自分がコンサートライトを握っている感覚がある。視覚と触覚の齟齬は脳が補正しているのか、それともワシ自身の強い思い込みが、この現象を生じさせているのだろうか。

 アイドル達が歌い始める。島村卯月、渋谷凛、本田未央……、きらめく衣装をまとって、彼女達が歌って踊る。ゲームのビジュアルを元にした3Dモデル、決して現実ではないと解っているのに、自然と手を振っていた。彼女達はそこにいる。


「イェェエエ! ヴォイッ! ヴォイッ!」

 ワシは叫んでいた。


(後篇に続く)


【10/31:動画追加】 


※1曲目冒頭、VRライブ初体験時の音声です

発売中のSFマガジン12月号には本コラム「星の光の向こう側」を全篇収録のほか、柴田氏による民俗学SF短篇「雲南省スー族におけるVR技術の使用例」も掲載しています。



SFマガジン2016年12月号 10月25日発売 定価=1296円

SFマガジン

この連載について

アイドルマスター シンデレラガールズ ビューイングレボリューション』体験記

柴田勝家

若きSF作家はVR空間で何を見たのか? 最新のVRゲーム『アイドルマスター シンデレラガールズ ビューイングレボリューション』を、シリーズのファンでもある柴田勝家氏が全力で(本当に全力で)レポート。SFマガジン12月号、VR/AR特集...もっと読む

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コメント

Shiro_White1111 柴田勝家(SF作家の方)先生はものすごいガチな由愛Pとして界隈では知られているのです https://t.co/gVAxKR80ZD 3ヶ月前 replyretweetfavorite

_appleboy_ @kkk_zara https://t.co/oBVd0YfSD0 5ヶ月前 replyretweetfavorite

tarlyon こちらが発端?のなにかですね 9ヶ月前 replyretweetfavorite

sai_tori https://t.co/XUlChTmlmA 柴田勝家殿はこのビジュアルの印象が強すぎる 1年以上前 replyretweetfavorite