東京の人は「消耗」している?
——5年間務めてきたgreenz.jpの編集長を、昨年末に卒業されましたよね。それはどういう理由からだったのでしょうか。
一番の理由は、今年の4月から始まった京都精華大学の仕事との両立が難しかったからですが、もうひとつ離婚危機もありました。
——え……。
いや、ほんとに。昨年の夏に妻と大げんかをしたんですよ。子どもが生まれたのをきっかけに、2013年に当時妻の両親が住んでいた鹿児島に移住したんですけど、まだ0歳とか1歳なのに毎週必ず出張があって。仕事も忙しく、孤独な子育てになりがちで、家族みんなの心の余裕がなくなってしまったんですよね。
それまでの僕はgreenz.jp編集長として、もっとも大切な存在であるライターさんとのやり取りに、ほとんどの時間をあてていました。また、ちょうど全国から講演の依頼も増えている時期でもありました。でも、子どもが生まれたことで、当たり前ですが今までとまったく同じ働き方はできなくなったわけです。とはいえ、急に変われるものでもないので板挟みになって、顔に帯状疱疹が出たこともありました。そうやって改めて「兼松佳宏としての仕事」について考え直したときに、「勉強家 兼 お父さん」という新たなあり方がみえてきたんですよね。
蓋をしていたけれど自分が本当はやってみたいこと、家族の幸せのこと、greenz.jp編集長としての仕事、この3つを両立させるのは難しい。そのときに唯一手放せたのが、編集長の仕事だったんです。
——それは苦しい決断でしたね。
それができたのもメンバーのおかげです。2014年秋には鈴木菜央とのダブル編集長体制になってましたし、インターン出身だったスズキコウタくんもアシスタント、デスクと成り上がってきていたので、「僕が辞めても大丈夫」って確信できた。もちろんgreenz.jpを完全に離れるわけではなく、関わり方が変わるだけなので。
——いま、兼松さんは京都に住んでいるんですよね。地方から見ると東京にいる人は、「消耗」してるように見えますか?
東京の中でも素敵なローカルな動きが増えてきているので一概には言えませんが、出張したときの夜の山手線は僕が消耗しましたね(笑)。
東京から離れてみて大きな変化だったのは、情報のインプットがいい意味で減ったことかもしれません。東京は活動の絶対数が多いだけに情報であふれていて、大きな流れに巻き込まれているような感覚でした。とはいえ行きたいイベントはたくさんあっても全部は行けないですよね。そうすると、「あー、あれも行けなかった」って後悔するし、「えー、あれ行ってないの?」とか言われるのも、ストレス(笑)。
もしかしたら自分が30代になったからかもしれませんが、インプットも大事だけど、同じくらい自分で考えて、アウトプットする時間をしっかり取りたいなって思っています。
——その他に東京と京都の違いを感じますか?
うーん、例えば京都ではカフェとかで耳に入ってくる会話にドキドキすることは多いですね。大学の数も多いので、いきなり「素粒子物理学では……」とか「奈良の歴史建造物が……」みたいな話が出てきたり、伝統産業に関わる方々が京都の歴史の面白い話やここだけの話をしていたり(笑)。「あれ食べた?」「あれ買った?」みたいな消費の話というよりも、もっと文化的というか。
——いいですねえ。京都の良さって何なのでしょうか。
それぞれ誇り高く自分の領分を持っていることですかね。当たり前のようにプライドがあって、一見敷居が高そうにもみえるけど、分をわきまえていれば多様性は認めてくれるし、面白くて本質を突いたものには興味を示してくれます。伝統的な街でありながら、革新的なものに目がないのも京都の特徴ですね。逆に言えば、自分の真価が問われ続けるシビアな街でもあります。そういう意味でも勉強家にはたまりません。
あとは東京や大阪よりもプレイヤーの数は少ないので、いろいろ面白い場に呼んでいただけるのもありがたいですね。引っ越してすぐにgreenz.jpの記事として京都市長と対談する機会をいただいたり、「デザインウィーク京都 2016」では京都府副知事、京都経済同友会代表幹事、ポートランドの起業家と一緒に登壇させていただいたり。最近では、京都府が主宰する「京の公共人材大賞」の審査員も務めることになりました。本当にありがたいことです。