ここは東京、西新宿。チェーン店の居酒屋に、さえない男たちの姿がありました。
陽太「ごめんごめん、遅れて」
店内に慌ててやってくるのは、医療器具メーカー・ドブ板メディカルの三年目営業・出来内陽太(デキナイヨウタ)です。
???「遅いよ~。もう先に飲み始めちゃったぜ」
と、ぬるいビールのジョッキを掲げるのは、陽太の大学時代のサークル仲間である道 貞三(ドウ テイゾウ)くんです。
貞三くんは、ちょっともさっとした感じの小太り、はふはふと息をして、女性経験が少なそうなルックスをしていましたが、陽太の親友でした。
今日は久しぶりに二人で飲もうということになったのですが……。
陽太「久しぶりだよね。三ヶ月ぶり? 貞三くんは、最近どう? 仕事忙しい?」
貞三くん「まあそれなりかな~。でも信じらんないよな。あの陽太が営業やってるなんて」
陽太「そんな貞三くんだって、大手企業のSEじゃないか。俺なんかより全然すごいよ」
そう言いながら、二人は大学時代、青春をささげた電子基盤研究会のことを思い返したのでした。
暑い夏の日、汚い部室……。
緑色の電子基板を俺好みにハンダ付けした日々……。
貞三くん「……あんなことやってたから俺ら、今も女っ気ないんだよな」
陽太「それはあるよね」
そう言って二人はごくりとビールを飲みました。
貞三くん「でもさぁ、ほんと今の仕事、つまらなくてさ。つまらないっていうか上司がめちゃくちゃでさ~」
陽太「あ~そういうのあるよね。うちも先輩がほんとクズくて……」
貞三くん「俺も将来は起業しようかと思うんだよね」
陽太「えー! すごいじゃん!」
貞三くん「まあ俺は人に使われるの、もう嫌なんだよね」
貞三くんはそうニヒルに笑います。
???「……ふっ。起業ね」
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