夏休みはあっという間に去ってしまった! そしてまた、学校の日常がはじまる。
2学期早々、多くの学校では文化祭がやってくる。思い返せば、僕が今の高校に赴任した昨年、担任を持つ1年のクラスで最初に「しくじった」のは、文化祭だった。
“怒る”(感情が先)と“叱る”(理性が先)のちがいを痛感した、あの日。
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僕の高校の文化祭は、外部からのお客さんが多く、大多数の生徒も準備に全力となるから盛り上がる。だが、僕の担任クラスはいまいちやる気に欠けていた。1学期のうちに、サンドウィッチ販売の模擬店を出すことに決まったものの、夏休み中はほかのクラスが準備にせわしい中、試作を少ししただけだった。
大丈夫かな!? 2学期がはじまった9月頭、僕は心配になった。日ごろは、生徒の自由をなるべく侵したくないという姿勢で臨んでる僕は、年に数回しかない行事くらいは「みんなで」がんばる努力をしてほしいと常々伝えていた。
集団で協働するトレーニングは、今のうちにやっておくべし(ちゃんとやってみて初めて、「やっぱ集団での活動は苦手だな」とも判断できるし)。集団での活動に自分なりに「貢献」する方法を模索することは、将来どこかで役立つんじゃないか。そんな思いが僕にはある。
文化祭は9月半ば。あまり時間がない。さすがに文化祭を仕切るクラス委員もあせり出した。ただし、男子2人、女子2人の委員のうち、あせって働きだしたのは女子だけ。男子は、相変わらずちゃらんぽらん。
文化祭前日になっても、ほぼあらゆることが女子まかせ。外のスーパーに注文しておいた大量のパンを運ぶのも、女子が中心。その間、男子はというと教室に残ってスマホでゲームか、じゃれ合うのみ。
この状態はまずい! どうしたものか…。
「いいかげんにしろっ!」とブチ切れた女子生徒
文化祭前日の昼、ブチ切れたのは僕、じゃなくて女子の委員だった。うわっと泣きはじめた彼女は、タンカを切った。
「いいかげんにしろっ! なんでそんなにツカえねーんだよ! もう明日なんだよ!? ○○と××(男子の委員)は、この状況見て、なんも思わないわけ? まともにやれよ!?」
今どきの学園ドラマやマンガでは描かれないような、ベタすぎる展開。それでも、教室の湿度はむわっと上がり、ムードはぴりっとなった。
まずいと思ったけど、これでやっと男子も動くだろうとの思いも芽ばえた。明日が文化祭本番というのに、会場設営もまだ半ば。よしここから奮起せよ、男子! 心でそうつぶやいた僕は、女子の委員をなだめてから、担任クラスとは別に管理を任されていた教室へ向かった。
そして、およそ2時間近く経った午後、自分のクラスに戻った。
「女の涙」に今どきの男子がほだされると思ったのが甘かった! さすがに委員の男子は働いていたけど、それ以外の男子の半分は何も手伝っておらず、相変わらずふらふらしている。
僕の中では、あせりよりムカッ腹のほうが圧倒するようになった。
さぼる男子にここぞとデカい声で、「何やってんだっ!!」と雷を落とした僕は、会場設営の陣頭指揮(男子生徒担当)をとることにした。△△はあっちで看板立てるの代わって来い。□□は調理手順の確認をチーフとまとめておけ。▲▲はメニューとテーブルの準備をちゃんと手伝え。
クラスを離れ、外をぶらついていた3人は、「てめーら、ちょっと来いっ!」と呼び出した。「今日何しに学校来たんだっ!? クラスでやるって決めた以上、ちゃんと手伝うのがスジだろーがっ!!」
ぶ然とした表情を保ったまま、僕に怒鳴られた3人の男子生徒は手伝いの場に散った。教室もしーんとなり、準備は粛々と進んだ。
楽しいはずの前日準備も、「女の涙」につづく「男の雷」のため、ぎこちないものになってしまった。特に男子は、僕の目を気にして「やらされてる」感ありありの動き。準備を終えて解散するときも、とくに怒られた男子生徒のウキウキ感はゼロで、静かに帰って行った。
もっとほかに、男子のやる気を高める方法はあった。感情まかせに“怒る”という、一番手っとり早い方法をとった僕は、幼稚なアマチュアだった。たまたま目についた3人を見せしめにしてしまったし…。明日は文化祭なのに、やっちまった。
僕のとなりに座った一人の男子生徒
皆を見送った僕は教室に残り、「猛省モード」に入って肩を落とした。
そこに、一人の男子生徒が教室に戻ってきて、僕のとなりにちょこんと座った。男女両方に人気があるけど、快活で気取らない、バスケ部の生徒。彼は「ヘコんでるんですか?」と声をかけてきた。僕は、ざんげするかのように、「うん。怒り方をまちがえた」と告白した。
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