「もっとおもろなりたい」と後輩の前で絶叫する大御所
まだ35歳のダウンタウン・浜田雅功に対して笑福亭鶴瓶はひとつの“予言”をした。
「“される”キャラクターや、のちに。50歳くらいで」
「される」とは、自分のように後輩たちからイジられるキャラクターだということだ。
当時のダウンタウンは前年、『ダウンタウンのごっつええ感じ』はトラブルで終了したが、本を出せば大ベストセラー、CDをリリースすればミリオンセラーと絶大な人気を誇り、お笑い界のみならず、テレビタレントとして“天下”を獲った状態だった。もはや向かうところ敵なし。
その暴力的ともいえるツッコミで誰もが恐れる存在。「イジられる」というイメージとは対極にいる尖りまくった浜田雅功に対して鶴瓶はきっぱりと言い放ったのだ。かつてスタッフらとケンカの絶えなかった“武闘派”の自分の姿を思い起こしていたのかもしれない。
そしてその予言は的中する。まさに50歳を超えたいま、『水曜日のダウンタウン』をはじめとする番組で度々イジられているのだ。
鶴瓶がその予言をしたのは、鶴瓶とウッチャンナンチャンが司会を務めた『いろもん』のゴールデンタイムでのスペシャル版。1998年6月6日に放送された『いろもん豪華特別版』だ。
「しゃべりが長い!」
「ダラダラしすぎ!」
登場するなり浜田と松本人志が続けざまに鶴瓶に対してダメ出しをすると、南原清隆も「エンジンかかるのが遅いんだよ!」と参戦。鶴瓶はダメ出しを浴び続けた。
「勘弁してくれ、自信なくなるわ、なにもかも!」
さらにダメ出しが続くと鶴瓶は、ソファーに突っ伏し、座布団を何度も打ちつけながら叫んだ。
「もっとおもろなりたい! もっとおもろなりたい!」
こんなリアクション、普通はできない。極めて異常な展開だ。
大御所の話芸そのものに、よってたかって暴言に近いダメ出しをする。そんな一回り以上年下の後輩に対して、「もっとおもろなりたい!」と堂々と言い放っているのだ。
堪らず4人は爆笑した。その捨て身ともいえる見事な受け身に驚愕していたに違いない。
なおも鶴瓶はどこまで本気かも分からないように言うのだ。
「松本の前だとアガんねん」
あこがれ“られない”大御所
あるとき、内村光良と東野幸治とエレベーターで一緒になったことがある。そのとき、内村がしみじみと言った。
「良い人だけどあこがれないなぁ……」
笑福亭鶴瓶は誰もが認める“大御所”芸人である。ダウンタウンにイジられたように、豪邸に住み、別荘も建てた。芸人として大金と夢を掴んだ。
さらにお笑い要素の強い番組を作るのが難しい現在も、鶴瓶は企画段階から関わり自分好みのお笑い番組を作り続けている。
後輩からあこがれられる要素は揃っている。
しかし、「あこがれない」と堂々と言われるのが笑福亭鶴瓶が唯一無二の存在であるゆえんだ。
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