「いい人」というイメージの笑福亭鶴瓶には一方で「悪瓶」(わるべえ)という異名がある。
これは、『ナインティナインのオールナイトニッポン』(ニッポン放送)での「大笑福亭悪びん」というコーナーが始まりだった。96年の『笑っていいとも!特大号』の打ち上げで酔った鶴瓶が周りの出演者たちに暴言を吐きまくった。そのエピソードを語るうちにできたコーナーだった。
そこで“本当は悪い”鶴瓶のエピソードが語られるようになった。
もっとも有名なものが鶴瓶がナインティナインにあるアドバイスを送ったというエピソードだろう。
それは97年3月に放送された日本テレビの改編期の特番『春は超人気番組大集合!! マジカルまる見えバラ珍コラえて特ホウ特命おしゃれに大辞テンもヒッパレ!!』でナイナイと鶴瓶が一緒にコーナーMCを務めた時のことだ。
緊張する矢部に鶴瓶はアドバイスをした。
「笑ろとけばええのや」
矢部はそのときの鶴瓶の目が笑っていないことにゾッとした。スケベで親しげなえびす顔の眼の奥に鶴瓶の空恐ろしい部分を垣間見たのだ。
落語家の先輩である桂きん枝は鶴瓶を「えびす顔の悪魔」と呼び、所ジョージは鶴瓶にこんな歌を捧げている。
「鶴瓶さんはいい人だぁ~。『いい人』って役を上手くこなす人♪」※1
さんまがネタにした悪い鶴瓶
いまではこうした鶴瓶の好感度溢れる笑顔を揶揄するネタは広く知れ渡っているが、最初に「悪瓶」的な側面をネタにしたのは明石家さんまだった。
2人はさんまがデビューしてすぐからの付き合いだ。さんまがまだ19歳くらいの頃、2人は出会った。
同じ落語家でありながら、早くからテレビやラジオに活躍の場を求めた2人はいつしか“兄弟”のような関係になった。
まだ2人が大阪に住んでいた頃、鶴瓶が名古屋に、さんまが東京にラジオの仕事に行く新幹線で鉢合わせになることが多かった。
駅のホームにはファンが集まっていた。そのファンに向かって鶴瓶は会釈をし、愛想を振舞っていた。
さらに鶴瓶はそんなファンから差し入れにおにぎりをもらった。電車が発車するまでの間に、鶴瓶はそのおにぎりを頬張った。
ファンからもらった食べ物は食べれないと訝しむさんまに向かって鶴瓶は言った。
「たしかに何か変なもんが入ってるかもしれんしな。俺も怖いよ。でもな、俺はファンを信じてこれを食べんねん。見てるとこで食べてあげると喜んでくれるやろ。芸人は喜んでもらってなんぼや。俺はファンを大事にしたいねん」
電車が発車し、ファンが見えなくなると、食べかけのままそのおにぎりをしまった。「もう食べないのか」と問うさんまに鶴瓶は当たり前のように言って笑った。
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