ここは東京、西新宿。医療器具メーカードブ板メディカル株式会社では、営業企画部の馬路出(マジデ)課長が
馬路出課長「もうすぐソフトボール大会だな!」
と爽やかな笑顔で言い放ちました。年1回の社内ソフトボール大会が近づこうとしていたのです。
河合さん「ソフトボール大会……?」
そう眉をひそめるのは、提携先からの出向者、河合さんです。
陽太「河合さんは初めてだよね。うちの会社、年に一回、社内全員参加のソフトボール大会をするんだよ」
と説明するのは、三年目営業の出来内陽太(デキナイヨウタ)です。陽太はこの河合さんにフォーリンラブなのですが……。
河合さん「それっていつやるんですか?」
陽太「来月の一週目の土曜日だよ」
河合さん「では私は不参加でお願いします」
陽太「どえええええ!?」
この河合さん、スーパークールなのが玉に傷です。
陽太「このイベント、営業部は全員強制参加だよ!?」
河合さん「そんなの知りません。休日を会社の行事のために使うなんてわけがわかりません」
ふーやれやれと河合さんはため息をつきました。
馬路出課長「それはダメだ」
二人の会話を聞いて、そうズバッと言い切るのは馬路出課長です。
馬路出課長「君の言いたいことはわかる。でもこの行事はそういうものじゃないんだよ。会社の行事ってのは仕事の一部なんだよ」
河合さん「賃金が発生しないのにですか?」
馬路出課長「うっ!?」
河合さん「サービスの提供があって、そして対価として賃金が発生することで仕事って言えるんじゃないですかね。この場合、賃金が発生しないので、仕事と言うことはできません」
馬路出課長「うっうぅ!?」
馬路出課長はタジタジになりながらも、
馬路出課長「と、とにかく営業部は全員参加だから! 河合さんもちゃんと参加するように!」
河合さん「ええ~!!」
と河合さんに指示したのでした……。
その日のお昼休み、
河合さん「まったくわけがわかりません」
そうぷりぷりしながら、定食屋でトンカツをほおばる河合さんの姿がありました。
陽太「まあまあ。参加してみるとけっこう楽しいよ。ねぇ先輩」
河合さんの席の向かいに座る陽太はそう言って、一緒にランチに来た屑谷先輩に話をふりました。
屑谷先輩「そんなに嫌なら当日、体調不良で休めばいいじゃねぇか」
河合さん「計画的病欠というやつですね」
河合さんの目がキラリと光ります。
陽太「またそんなクズいことを後輩に教えて……。でも、なんでそんなに会社の行事に出るのが嫌なの? 河合さん、会社の飲み会にも全然参加しないし……」
河合さん「さっき言ったように、会社のために自分のプライベートを使うのが嫌なんです。色々やることがありますし」
屑谷先輩「確かに俺も週末に会社でソフトボールするより、競馬場に行きたくて行きたくて手が震える」
陽太「先輩、それはある意味病気です」
陽太は思わず目頭が熱くなりました。
陽太「でも僕はけっこう会社の行事って好きだけどなぁ。いつもは話せない人と話せるから楽しいじゃん」
屑谷先輩「そうそう。会社の行事ってのは『社内営業』のチャンスなんだよ」
河合さん「社内営業?」
河合さんは首をかしげました。
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