乃木坂46とミスチル桜井和寿
柴 前回は歌謡曲とJ-POPの境目の話から、90年代のテレビバラエティはお笑いのほうが音楽よりエラかったという話でしたけれど——。
大谷 そして、カイブツ秋元康ね。そういえば柴さん、乃木坂46のアルバム聴きました? あれがほんとに素晴らしい。
柴 『それぞれの椅子』、いいアルバムですよね。
大谷 あそこに入ってる「きっかけ」って曲がめっちゃいいんですよ。
大谷 特に歌詞が素晴らしい。自分のアイデンティティがぐらついてる子が、その気持ちを信号機に喩えるんです。「心に信号があればいい」って。ルール通りに生きられたら楽だけど、誰かの指示を待つんじゃなくて、自分の衝動に従って生きていきたい、って。聴いてて胸が切なくなる。
決心のきっかけは 理屈ではなくて
いつだってこの胸の衝動から始まる
流されてしまうこと 抵抗しながら
生きるとは選択肢
たった一つを 選ぶこと
乃木坂46「きっかけ」より
大谷 そしたら、実はこないだMr.Childrenの桜井和寿さんからメールが来たんです。「乃木坂46の『きっかけ』って超良い曲じゃない? どう、大谷くん」って。
柴 ええ!? そんなメールが来るんだ! すごい。
大谷 こないだ武道館でやった「Golden Circle」ってイベントでも、桜井和寿が寺岡呼人さんとこの曲をカバーしてたんですよ。しかもそれが作曲した杉山勝彦さんに届いて。「音楽の道に踏み込むきっかけとなったアーティストに届いてうれしすぎる!」ってツイッターに書いてた。
柴 いい話だなあ!
大谷 秋元康さん、どれだけ名曲書き続けるんだって、つくづく思いましたよ。
柴 そこにちゃんとアンテナ張ってる桜井和寿さんも素晴らしいですね。
SMAPと野猿、そしてJ-POP名曲化の時代
大谷 あとテレビと音楽のシーンでデカいのがSMAPですよ。SMAPがお笑いと音楽を融合して、アイドルのあり方を変えてしまった。
柴 SMAPの存在はほんとに大きいですよね! 『SMAP×SMAP』が96年スタート。アイドルがコントをするなんてそれまでの常識にはなかったわけだから。
大谷 あともう一つ、忘れちゃいけないのが「野猿」なんです。あれも90年代だった。今も90年代テーマのDJイベントで野猿の曲をかけると超盛り上がるんです。
柴 ありましたねえ。『とんねるずのみなさんのおかげでした』の番組スタッフがデビューして、大ヒットした。
大谷 野猿って、意外に大事なグループだったと思うんです。
柴 そうなんですか?
大谷 あれも、90年代に秋元康さんが仕掛けたことだったんですよね。80年代のノリ、テレビの楽屋裏を見せてスターを作るのをもう一度やった。
柴 でも野猿は98年にデビューしてから3年後の2001年に解散してます。
大谷 「撤収」って言ってましたよね。長くは続けられなかった。
柴 実はそれも歴史的な流れから見ると必然だったと思うんです。
というのも、00年代初頭はそれまでの反動で、音楽のほうがお笑いよりエラくなろうとする動きが起こっていたから。
大谷 わかるなあ、それ。だってフェスも始まって、格好いいロックバンドもたくさん出てきて、宇多田ヒカルが出てきた。本物がウケる時代になった、ってことですよね。
柴 それに、00年代前半のJ-POPって、いわゆる名曲が多いんです。SMAPの「世界に一つだけの花」もそうだし、サザンオールスターズの「TSUNAMI」もそうだし、一青窈の「ハナミズキ」もそう。
大谷 マジメな歌が多いですね。
柴 そう! みんな茶化さない。教科書に載るようなタイプの歌詞なんですよ。MONGOL800の「小さな恋のうた」もそう。
大谷 青春パンクも全部そうだ。
柴 これって、いわゆる野猿的なものへの揺り戻しだと思うんです。
大谷 なるほどね! パロディが通用しなくなって、音楽のほうがお笑いよりエラくなってきたんだ。
柴 それに、BUMP OF CHICKENとかアジカンとか、00年代にデビューしたバンドはみんなテレビに出たがらなかった。それって明らかに『HEY! HEY! HEY!』とか『うたばん』に出てイジられるのが格好悪いと思ったからですよね。
大谷 わかるなあ。そこから音楽番組が衰退していったわけなんですね。お笑いありきの作り方しかできなかったから。
柴 そう。だから『Mステ』しか残らなかった。
大谷 なるほどねえ。それが00年代だった。じゃあ、これからの音楽番組ってどうしたらいいんでしょうね。
フェス化する音楽番組
柴 これね、僕はまず強く言いたいんですけど、みんな00年代を一緒くたにまとめて語りすぎなんですよ。00年代って、実は前半と後半で全然違う。