横殴りの雨がさらに勢いを増し、ワゴン車を打ちつける雨音が不規則なリズムで車内に響いていた。
ラジオからDJが「雨の日はすき? きらい?」というテーマで、リスナーにファックスとメールの募集をした後に、関東地方に大雨注意報が出ていることを告げていた。
「こんなに朝っぱらからよく食欲あるもんだよなぁ」
立ち食いそば屋で、そばをかっ込んでる大学生風の若者二人を見て、関口は感心している。
「しかしあの店員の髪型やりすぎだろ?」
「そうやって人の髪型いじるの、ホント悪い癖だよおまえ。この金髪坊主が!」
山手通りの交通量が明らかに増えてきていた。東京都江戸川区の“新米主婦”からのリクエスト曲、DREAMS COME TRUEの『決戦は金曜日』がラジオから聴こえてくる。
「あれ、今日って金曜日だっけ?」若者のかっ込むような食いっぷりに目を奪われながら関口は声をかけてきた。
「火曜だよ」
「だよなぁ」関口がこちらを向いて話しかけてくる。
「おまえ、スーのことまだ覚えてるよな?」
「そりゃまぁな」
「あの夜の東京、俺は忘れられないわぁ」
「えげつなかったね、いろいろと」
「いやぁ実に若かったねぇ。また六本木くり出しちゃう?」
「ぜっったいにイヤだね」
そう言いながらボクは、悪い意味で色褪せない、美しすぎたひととあの下品な夜たちを思い出していた。
それは今から12年前の2004年の出来事だ。
その夜は、六本木のクラブ『REQUIEM』で飲んでいた。そこは3層構造のフロアの最上階で、絵に描いたような「ザ・VIPルーム」というやつだった。
都内でコンセプトの違うカフェやクラブを12店舗経営してるサファイヤプロモーションの10周年記念イベントで、そのオープニング映像を制作したということで、ボクらはその打ち上げにお呼びがかかった。
あの頃、関口はちょっと放っておけない状態にあった。
完全に仕事がキャパを超えていた。ボクも同じような仕事量だったけれど、生放送をメインに組まれていた関口の方がプレッシャーは途方もなかったはずだ。絶対に遅れるわけにはいかない仕事を、彼は一日に3番組は抱えていた。
昼間にふたりして睡眠薬1錠を割って、缶ビールを買ってきて半分ずつにしてよく飲んだ。夕方にその儀式を、関口一人でもう一度やっているのに気づいたのがその頃だった。少し頭をボゥとさせて仕事に臨まないと精神的に持たない感じの現場だった。
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