「何でいつもお母さんはオーバーなことをするんだ」
皆さん、平野レミはいつからあんなに元気なのだろうかとお思いだろうが、ずっと元気なのである。先日、上野樹里との結婚を発表したレミの息子・和田唱(TRICERATOPS)は、中学2年生の時に家族でヨーロッパ旅行に出かけ、機内で起きた珍事についてこう言い残している。「眠ってて目をさましたら、目の前にスチュアデスがいっぱいたかってるのであせったよ。何でいつもお母さんはオーバーなことをするんだ」(平野レミ+和田誠『旅の絵日記』)。
何があったのか。機内が寒いのでもう1枚ブランケットが欲しいと申し出たレミだが、スチュアデス(本の表記に準じる)に、ならば機内を走ればいいじゃないとジェスチャーでおちょくられてしまう。日本人スチュアデスに申し立てると、偉い男の人が出てきて、そんな失礼なことを言うスチュアデスはクビにする、と言い始める。男は機内全員のスチュアデスをレミのまわりに呼びつけて「どの人ですか」と問うてくるのだが、「外人の顔はみんな似ているので、どの人だかよくわからない」とレミ。困惑する機内。唱少年はそんな瞬間に目を覚ましたのだった。
「ふざけるな」を浴びながら、「面白い」に変換してきた
皿の上にブロッコリーを立て、その上からたらこソースをかけ、「ありの~ままの~すがたみせるのよ~」と歌い上げるなど、テレビに出る度に突飛な光景を提供してくれる平野レミ。テレビの方程式を破壊する起爆剤としてすっかり茶の間に期待される存在になったが、その姿勢は料理愛好家(彼女は「料理研究家」とは名乗らない)としてテレビに出始めたころからちっとも変わらない。
NHK「きょうの料理」に初めて出演した日、レミは薄切り牛肉とトマトを炒める料理を作った。いつも家で作っているのと同じように、トマトを手でぐしゃぐしゃとつぶすと、NHKに「あの下品なやり方は何だ」と抗議の電話が殺到したという(平野レミ『笑ってお料理』)。キーの高い早口で喋り倒しながらトマトをつぶす、というのは、3コードで勢い任せに曲を作るパンクの登場のようなもので、既存に抗う姿勢とも受け取れる。「平野レミ=面白い」が定着している現在は、時間をかけて平野レミが果敢に耕してきた土壌があってこそ、とも言える。「ふざけるな」を浴びながら、「面白い」に変換してきたのだ。