瞑想がきく人、きかない人
海猫沢めろん(以下、海猫沢) 僕はある程度の期間瞑想を続けているんですが、実はそんなに自分が変わった感じがないんですよねえ……。
川上全龍(以下、川上) (笑)。
海猫沢 なんでなんですかね。劇的に変わる人というのはどういう人なんでしょう?
川上 もともとストレスをためている方はかなり変わりますよね。それと、自分で自分を見ているだけではわからなくて、周りからのフィードバックも必要。家族や知り合いに「最近イライラしなくなったね」とか言われたり、そういうところで見えてくると思いますよ。
海猫沢 あ、パニック障害の方とかにもいいというのは、本で書かれていましたよね。ちなみに川上さんご自身は、瞑想で副交換神経が活発化したり、セロトニンが出たりということへの実感はありますか?
川上 やはり20分以上座禅を組んで瞑想していると、感覚はありますよ。とはいえ、感覚は主観的なものなので、マインドフルネスの研修などではバイオフィードバックを活用しているわけですが。
海猫沢 ぼくは瞑想ではまだ経験できていないんですけど、別の方法で身体と精神の結びつきを実感したことはあって。「アイソレーション・タンク」ってご存知ですか? 塩が大量に入った水の中にぷかぷか浮いてリラックスするというやつで、たしか京都にもあったと思うんですが。
川上 あー、わかります。試してみたかったんですけど、行こうとしたらもう潰れていて(笑)。
海猫沢 僕は何度か行ってみたんですけど、一回目は明らかに精神状態が変わりましたね。全裸になって完全に真っ暗やみでぷかぷか浮かぶんですけど、かなり強制的に変わる。水の中に入っているのに一瞬コンクリートでガチっとかためられたように時間が止まる感覚が訪れたりして。これはある種「さとり」を強制的に実現できる装置なのではと思って、オーナーに聞いてみたら、やっぱり「禅宗の人が結構くる」という話をしていました。
川上 へええ。
海猫沢 ノーベル学者のリチャード・ファインマンもアイソレーション・タンクをやったことがあるんですよ。考案者のジョン・C・リリーと知り合いで、彼女の家で何度か試していたら「自我が何インチかずれた」なんてことがエッセイに書いてある(笑)。やはり身体を操作することで精神に何か起こるということはあるんですよね。世の中の人が、なかなか日常で意図的に体をコントロールできていないだけで。
川上 ないですよね。だからこそ脳科学の発達で身体と精神の関係が見直されているという。今流行の「腸内フローラ」とかも見直しの一環ですからね。
人間は二元論ではとらえられない
海猫沢 身体と精神の関係って、やっぱり現代医学がベースとしている二元論じゃとらえられないということですよね。人間と機械の境界を探る取材をしてきたなかで、「マツコロイド」を作ったロボット研究者の石黒浩さんに「もし機械がヒトになるとしたら、ハードウェアとソフトウェアに分かれているか、いないか」という質問をしたんです。そのときも、「たぶん分かれていないだろう」という答えでした。だってヒトはハードとソフトに分かれていないんだから、って。
川上 グレーのものをどう認めていくかというのは、心身の問題に限らず大切だと思います。そういうふうに物の観方を柔軟にしていくのも、マインドフルネスの役割かなと。
海猫沢 川上さんは同性婚を推進されていますけど、LGBT問題というのも二元論では語れない領域ですよね。人間の性別とか性差って、男/女で明確にわかれるものではなくてグラデーションになっているじゃないですか。だから、グラデーションの間にLやGやBやTがいるのでもなくて、みんながちょっとずつ違うし、「どっちでもある」し「どっちでもない」という。
川上 その通りだと思います。私は「LGBTという人間はいない」と思っていますし、そうした言葉を使わなくてもいい社会というのが究極の理想だなと考えています。
海猫沢 たしかに一度可視化することが権利の推進のためには必要だったんだろうけど、日本の場合、あいまいなものをあいまいにしておくことで乗り切ってきた部分もあるのに、海外のスタンダードのお仕着せによっていびつになっている部分もあるんじゃないかなと感じます。伝統の再解釈をするというのが大切なのかなあと。